大昔の話で恐縮である。転勤で地方出張になったことがあった。住民票も移すことになったので諸手続き上、実印も移すことになった。現地の役所にいって実印の住所変更を届け出たが、持参した実印では受け付けられないというのだ。理由は何やら文字雛形の台帳に自分の実印の文字がないそうなのだ。向こうは「台帳にない文字の実印は登録できないことになっています」と一点張りである。しかし前居住地では立派に実印登録していたのだし、しかもそれを使って種々の契約書に判を押してきた。ここでそれが登録できないとなるといままでの契約書は全部無効になってしまう。こんな理不尽はないと窓口でねばった。ちょっと強い口調で「過去の契約書の類を全部無効にするつもりですか?」ともいった。また「役所が異なると実印の善し悪しも異なるのですか?」とも言った。担当者は奥で課長らしき人と話しをして戻ってきた。「・・・じゃあ今度だけは認めますので」と。この「今度だけ」という言葉にカチンときた。「今度だけ? まるで私が規定外の申告を無理強いしているようじゃないですか。そこまで言うなら全国の役所で統一した雛形台帳作ってくださいね。いいですね! あなたの責任で作ってくださいよ! あなたお名前は?」と言い放ってやった。20年以上も前の地方でのできごと。世にも奇妙なお役所仕事である。