昔から「教科書」といえばその科目のスタンダードやら規範やらが記載されているはずである。ところが医学のスタンダードはどうも教科書がすべてではないようである。先日、糖尿病の足壊疽の治療の講演を聴きに行った。自分も救命センター時代には糖尿病の下肢壊疽からガス壊疽に陥った患者さんを何人も治療してきた経験がある。当時の教科書では「原疾患(糖尿病)のコントロール」「創部は保存的治療」としか書いていない。方法が記載されていないのだ。しかし当時救命センターで覚えたことは、「創部を開放にする(縫合しない)」「壊死組織を毎日きれいに切除する(デブリドマン)」「毎日創を洗浄しながらブラッシングする」ことであった。これは並大抵の手間ではない。患者さんもかなりの激痛を伴う。教科書に書いてある「保存的治療」というのは何も経験したことのない人が書いているのだなと当時落胆した思い出がある。