その講演で症例が提示されたが、高齢者の糖尿病で内服治療中の患者さんである。最近、言動がおかしい、つじつまが合わないことをいう、やたら怒りっぽくなってきたということで周囲の人は認知症を考えていたようである。ここで通常なら、認知症かあるいは気の利いた医師なら「いや、それもあるけど慢性硬膜下血腫も除外すべき」というだろう。ということで病院に連れてこられた。そしてこの患者さんの頭部CTをとったが特に脳や海馬の萎縮もない。また硬膜下に占拠性病変もみあたらなかったので帰宅させられたそうである。以後も言動不穏が続いたそうだがこの先生が診て血糖をはかったところ食後にもかかわらず42mg/dlと低血糖状態だったそうである。この高齢の患者さんが呈した低血糖の症状はほとんど教科書には記載されていない。でも臨床の現場では時々こんなのに出っくわすのだ。