1968年にD-45という型番のモデルが発売された。このモデルは戦前にも一時作られていたものであるが、その後ずっと生産が中止されていた。最上級の木材を用いアバロンのきれいな装飾が施された「超ド級」の高級手工ギターであった。それがこの年にまた生産ラインに乗ったのである。ちなみにこの1968年の再生産の輸入第1号は加藤和彦氏が、第2号は石川鷹彦氏が購入したと聞いている(もしかしたら輸入第1号はK楽器で保管してあり、加藤氏のものは2号だったかもしれない)。まあこのあたりの細かい情報についてのツッコミは無用である。ついでであるがその時加藤和彦氏の所有していたD-45は現在、御茶ノ水の某ショップで「not for sale」でガラスケースに展示されている。さて実際、自分は当時ソロで活動中であった加藤和彦氏のコンサートでこのD-45を見たのである。彼がステージで「今度念願のギターを買いました。まあこれで普通乗用車が走りますよね」といったのには驚いた。Martinの、中でも最高級モデルであるD-45の音を聞いたのはそれが初めてであり、そのきらびやかで派手な音に驚いたものである。低音の音圧は腹に響く迫力があり、一方高音の音色の美しさは後年形容される「鈴鳴り」の言葉通りに2個以上の鈴を同時に鳴らしたような音であった。当時自分が聞いたどのギターの音色よりもインパクトが強いものであった。