その後、抗癌剤の副作用でかなり苦しんだものの、一時期リンパ節転移も消えて具合はよかった。ただ抗癌剤の副作用は彼にとってかなり耐え難いものであり嘔気、嘔吐、倦怠感、口内炎がひどくまったく数週間は動けなくなるような状態であった。彼は言っていた。「こんなに耐えがたい状態が何クールも続くのであれば抗癌剤はやめる。治療はすべて放棄して緩和ケアにしたい」と相談された。可能性が少しでもあれば諦めずに続けるよう話をしたが、今思うと自分の発言はある意味無責任だったかもしれない。彼に行なわれている抗癌剤治療はゴールがない。今この辛い毎日が行き続ける限り今後も延々と続くのである。やがてそれから抗癌剤の副作用で辛い思いを何度もしながら、病状は確実にゆっくりと悪くなっていったのである。彼の言葉が生々しい。「抗癌剤なんて完全に治すためのものではない。辛い副作用で社会生活が全く営めない状態になる。ところがただ延命期間のみ伸ばすので医学的には「効いた」という。しかしそれは患者不在の医療である」と・・・。彼の生の声である。とても自分には痛く響いた。