この本を閉じたら、今すぐ動け!!
『運動脳』(アンデシュ・ハンセン サンマーク出版)
著者の提言はたった一つ。「運動をして脳の機能を高めよう」である。それについての科学的知見が網羅され、説得力の高い論述が続いている。「身体を動かすことが健康にいい」という常識中の常識を、脳に特化して語っているのか。いや、そうではない。人間の、動物の「脳」そのもの本質に直結させて、導き出す。
象徴的、かつ刺激的フレーズは次の文章。
「脳」の最も大事な仕事は「移動」。
そう考えると、「動物」と「植物」の根本的な違いにはっと気づかされる。そして問題なのは、我々人間の多くは動かなくともいい社会を作り上げてきたことだ。ベストセラーになった『スマホ脳』と同様、ここでも繰り返されている重要な認識は「生物学的には、私たちの脳と身体は今もサバンナにいる」という点だ。
つまり「脳は変わっていなくとも、脳をとりまく環境が劇的に変わった」。本来、狩猟採集民である脳は、実はあまり変わっていない。その根拠として、我々がおやつ等を残らず食べたくなる例を出しての説明が、興味深い。それは「たっぷり蓄えておくために、脳が『すぐに食べてしまえ』と命令する」からだそうだ。
そうやって人間は生き伸びてきた。しかしその生存本能の衝動と現実の生活様式は噛み合わないし、備えるべき食糧難とも距離がある。さらに狩りをするため、また生命を守るための「逃走と闘争」のための運動の機会は、皆無といってよい。そんな生活様式の中で「脳」、つまり心と身体が不健康になるのは当然だ。
高齢者としては「健康維持」の観点で読んだ。それはそれとして、やはり教育のことが思い浮かぶ。学校の現在の詳しい状況はわからないが、以前のように一斉トレーニング的な時間の目減りは確かだろう。あくまで一面だがその事実は、この本に照らし合わせれば明らかに脳の機能を高める機会の減少と言い切れる。