【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「雨のなまえ」窪美澄

2014年01月25日 20時32分44秒 | 読書(小説/日本)

「雨のなまえ」窪美澄

単行本5冊目、今回は、短編集。
窪美澄さんの作品は全て読んでいる。
今回も、とても良かった、レベルをキープされている。
今まで、ハズレはない。

・・・とは言え、今回は、「救い」の無い話ばかり。
カタルシスとは無縁。
行き場のない思い、閉塞感が表現される。
読んでいるこちらまで鬱屈してくる。(でも、読まずにいられない)

5編収録されている。
いずれも雨に関係する話ばかり。

「雨のなまえ」
「記録的短時間大雨情報」
「雷放電」
「ゆきひら」
「あたたかい雨の降水課程」

P45
妻の視点から家族を表現している・・・なんと冷めていることか!
ばたばたと息子が階段を下りてくる音がする。夫に似て、すべての生活音が大きい。水の音がして、トイレから新聞紙を手にした夫が出てくる。こもったにおいが、廊下まで流れてくる。家族なのだから仕方がない。うんざりを通りこしたあきらめの気持ち。縁あって同じ家に暮らしているのに、私の、彼らに対する気持ちは驚くほど冷めている。家具や食器と同じように家族を見ている。その自分の冷たさを、恥じる気持ちも私にはもうない。それが、生活というものを維持していくあきらめなのだとわかっている。

P61
中身はどうあれ、家族というパッケージにくるまれ、生活は続いていた。

P86
夫は黙っている。二人で目も合わさず、テーブルのどこかを見つめている。この人に恋したことも確かにあった。二人の間に生まれた子どもを二人で育てた。それほどの縁があった。それなのに、心は近づいては失望し、それでもまた近づいて、離れていく。それでも同じ家に住み続けることのおろかさを抱え続けたまま、私は澱んだ水たまりのような女になってしまった。

P185
小さな子どもの視点から両親を表現する(巧い!)
自分は、二つの乾電池につながった豆電球みたいだ、と思った。つながってはいるが、理科の実験で見たように、ぴかっ、とは光らない。どちらかと言うと、自分の体から発する何かを、父や母に吸い取られているような気がした。

【参考】
WEB本の雑誌に【作家の読者道】というのがある。
第116回が窪美澄さん。
このインタビューの中で、窪美澄さんが、松谷みよ子さんの『小説・捨てていく話』について触れている。
次のとおり。

「モモちゃん」シリーズの松谷みよ子さんの『小説・捨てていく話』というのがあって、これはご主人と別れる話なんです。松谷さんご自身、劇団をやっていたご主人のためにお金を稼ぐのにご主人はばんばん浮気をする。結局松谷さんのほうから別れるんですけれど、「モモちゃん」を読んでこれを読むと背筋が凍ります(笑)。あのシリーズの背景にはこれがあったのね、という。すごく温度を低くして、「私はそれを~~しました」「私はこれを~~しました」と淡々と書かかれているので、よりいっそう怖いです。

【参考リンク】1
「晴天の迷いクジラ」窪美澄
「ふがいない僕は空を見た」窪美澄
「クラウドクラスターを愛する方法」窪美澄
「アニバーサリー」窪美澄

【参考リンク】2
作家の読者道 第116回:窪美澄 - WEB本の雑誌
【リアル30's】変えてみる?識者に聞く 作家・窪美澄さん(46) - 毎日jp

【ネット上の紹介】
妻の妊娠中、逃げるように浮気をする男。パート先のアルバイト学生に焦がれる中年の主婦。不釣り合いな美しい女と結婚したサラリーマン。幼なじみの少女の死を引きずり続ける中学教師。まだ小さな息子とふたりで生きることを決めた女。満たされない思い。逃げ出したくなるような現実。殺伐としたこの日常を生きるすべての人に―。いまエンタメ界最注目の著者が描く、ヒリヒリするほど生々しい五人の物語。