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「よろこびの歌」宮下奈都

2014年01月28日 21時31分34秒 | 読書(小説/日本)

「よろこびの歌」宮下奈都

読み終わるのが惜しくなる作品。
おそらく、今年度ベスト作品のひとつになる、と思う。
読み終わってから、再読もした。
・・・やはり、おもしろい。
お薦め、です。

音大附属高校の受験に失敗し、新設された歴史の浅い女子校に進学した御木元玲。
何のやる気も出ず、クラスメートとも交わらず、常に一人で行動する。
高校2年になったある日、合唱コンクールで指揮者に選ばれる。

P208
秋に、ちょっとした出来事があった。御木元さんがクラス対抗の合唱コンクールの指揮者に選ばれたのだ。彼女が指名されたのは、音楽家の娘だという噂が広まっていたせいもあるけど、その協調性のなさを腹立たしく思っている人もけっこういたからだと思う。
(中略)
いやいや引き受けたに違いないのに、御木元さんは途轍もなかった。特別としかいいようのない光を私たちに見せてくれた。彼女にしてみれば、特別なつもりもなかったのかもれない。指揮者になったことで光が漏れた、そんな感じだった。
級友たちをどうにか引っ張っていくために四苦八苦する彼女は、自分では歌わず、指揮と指導に徹していた。それでも彼女が各パートの出だしや山場を歌って示す、その歌声に触れただけで身体に鳥肌が立つようなことが何度もあった。

予想に反して、この作品のすばらしさは、合唱コンクールが終わってから出てくる。
御木元玲と原千夏の友情と歌への情熱が、縦糸、横糸として展開する。
さらに、クラスメート1人1人が丁寧に描かれる。
語り手も、各章で変わっていく。
ほんと、すばらしい。

なお、本作品には続編がある・・・「終わらない歌」。
すでに読了済みなので、後ほど紹介する。
終わらない歌 

【蛇足】
もし、作品について、(あえて)瑕疵を挙げるとしたら、ヒロインがマラソン苦手、ってこと。
声楽を志す人が、最下位になるだろうか?
肺活量を鍛えるため、ジョギングとかしないのだろうか?
少し、不思議に感じた。
なお、この点は著者も気になったのか、続編「終わらない歌」(P105)で、元クラスメートに
・・・「身体鍛えなよ」、と言わせている。
*この点について、再度こちらにて記載。→ 「終わらない歌」宮下奈都

【参考リンク】
「本の泉」第84回:今、注目の作家・宮下奈都登場!|著者インタビュー

【ネット上の紹介】
著名なヴァイオリニストの娘で、声楽を志す御木元玲は、音大附属高校の受験に失敗、新設女子高の普通科に進む。挫折感から同級生との交わりを拒み、母親へのコンプレックスからも抜け出せない玲。しかし、校内合唱コンクールを機に、頑なだった玲の心に変化が生まれる―。見えない未来に惑う少女たちが、歌をきっかけに心を通わせ、成長する姿を美しく紡ぎ出した傑作。

【参考】
読んでいて、荻原規子さんの「樹上のゆりかご」を思い出した。
こちらも、すばらしい内容である。
中公文庫<br> 樹上のゆりかご 

【参考】
文庫本解説が大島真寿美さんである。
「ピエタ」の作者だから、であろう。→「ピエタ」大島真寿美

【ネット上の解説】18世紀ヴェネツィア。『四季』の作曲家ヴィヴァルディは、孤児たちを養育するピエタ慈善院で、“合奏・合唱の娘たち”を指導していた。ある日教え子エミーリアのもとに恩師の訃報が届く―史実を基に、女性たちの交流と絆を瑞々しく描いた傑作。2012年本屋大賞第3位。