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「台湾海峡一九四九」龍應台

2016年01月28日 21時22分05秒 | 読書(台湾/中国)


「台湾海峡一九四九」龍應台(りゅう・おうたい)著、天野健太郎訳

「古典となるべき運命」と言うフレーズがあるが、この作品のことだろう。
1945年、日本は終戦を迎えた。
それにより、日中戦争が終結。
しかし、新たな戦争が始まる。
いわゆる、「国共内戦」である。(この資料は少ないそうだ)
「戦争」と1949年を中心とした「時代」と「人々」が描かれる。
すばらしい作品、である。
ノンフィクション作品でありながら、「文学」でもある。

数々のエピソードが、様々な立場から積み重ねて語られる。
膨大な量の資料にあたり、取材も相当な人数にのぼる。

P8
本書は文学であって、歴史書ではない。私は信じている。文学だけが、花や果物、線香やろうそくと同じように、痛みに苦しむ魂に触れることができるのだ、と。

長春の包囲戦
P186
 包囲戦が始まった時点で、長春市にいた民間人は50万であったといわれている。しかし市内にはほかにも外地から流れてきた無数の難民と親類を頼る居候がいたから、総人口はおそらく80万から120万人であったろう。そして包囲戦が解かれてとき、共産党軍の統計によれば、中に残っていたのは17万人であったという。
 それほど大量の「蒸発」者は、いったいどうなってしまったのかって?
餓死者の数は10万から65万といわれ、あいだをとって30万とすると、ちょうど南京大虐殺で引用される数字と同じになる。

1945年9月2日ミズーリ号にて
P224
重光葵(まもる)のかたわらに立つ軍装の男。彼は望んでこの場所に来たのではなかった。この男は、最後の1兵卒まで戦うことを主張した陸軍参謀総長、梅津美治郎(よしじろう)である。権力を盾に「梅津―何応欽(かおうきん)協定」の調印を何応欽に強要し、華北を勢力下に置いていたのが、彼である。そして「壊滅作戦(三光作戦)」を発動し、中国の村々を焼き尽くし、殺し尽くし、奪い尽くした――それが彼である。「七三一部隊」の創設を許可し細菌兵器を製造させた――それも彼である。関東軍総司令官を拝命したとき、梅津は「今後はますます粉骨砕身して皇恩に報いる」と厳粛に語ったという。

P360
 そう、1944年9月2日、アメリカ軍の飛行機が1機、父島で日本軍に撃墜された。海に墜落したあと、搭乗していた4名が斬首され、それ以外4名の乗組員は日本軍将官に殺され、煮て食われた。
 9人で唯一生き残ったのは、マサチューセッツ州出身で20歳になったばかりの若者だった。海を漂流していた彼は、アメリカ軍の潜水艇に救助された。
 この九死に一生を得た若者は、65歳のとき第41代アメリカ大統領となった。彼の名はジョージ・H・W・ブッシュという。

P387
つけは多すぎて払いきれず、恩は多すぎて返しようもなく、傷は多すぎて塞がることはなく、失ったものは多すぎてどう埋め合わせても追いつかない・・・・・・。

著者の言葉・・・
P5
私の目を見つめて、正直に答えてほしい――
戦争に「勝利者」はいるの?

訳者の言葉・・・
P429
本書は原題を「大江大海1949」という
「大河、大海」を意味する書名は言うまでもなく、蒋介石国民党政府が台湾へ撤退した1949年に、中国という広大な大地(とそれにつらなる大海)で荒れ狂った歴史と運命を指し示したものだ。

【感想】
あまりに濃度の高い作品で、登場人物も多い。
いずれ、再読の必要有り。

【参考リンク】
龍應台『台湾海峡一九四九』

【ネット上の紹介】
人びとが下したささやかな決断と、それがもたらした壮絶な流浪の軌跡。台湾随一のベストセラー作家が満を持して放つ歴史ノンフィクション。

[目次]
第1章 手を離したきり二度と…―父と母の漂泊人生
第2章 弟よ、ここで袂を分かとう―少年たちの決断
第3章 私たちはこの縮図の上で大きくなった―名前に刻み込まれた歴史
第4章 軍服を脱げば善良な国民―包囲戦という日常
第5章 われわれは草鞋で行軍した―一九四五年、台湾人が出迎えた祖国軍
第6章 フォルモサの少年たち―捕虜収容所にいた台湾人日本兵
第7章 田村という日本兵―ニューギニアに残された日記、生き残った国民党軍兵士
第8章 じくじくと痛む傷―一九四九年の後遺症