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「ヒマラヤ 生と死の物語 奇跡の生還と遭難の悲劇」池田常道

2018年04月19日 21時14分36秒 | 読書(山関係)
「ヒマラヤ 生と死の物語 奇跡の生還と遭難の悲劇」池田常道

 池田常道さんは前作で「現代ヒマラヤ登攀史」を上梓されている。
「現代ヒマラヤ登攀史」は、盛りだくさんに情報が詰まっている。資料としての価値あり。
 一方本作は、ヒマラヤにおける印象的なエピソードを掘り下げて詳細に書いてある。
読んで面白いのはこちらのほうである。

P4-5
生死の境目は、とくにヒマラヤのような極限の環境の下では、文字どおり紙一重に過ぎない。落ち度はなかったのに悲惨な結果に終わったもの、失敗を重ねてなお幸運な生還を果たしたもの、ふたつが混在している。どちらがいいのか悪いのか、そんな判定はしていない。
 ただ、そこに至ったプロセスを、資料に基づいて、できるだけ忠実に再現しようと考えた。

P19
前回最高到達点まで登ったフィンチは呼ばれなかった。彼が英国本土ではなく、植民地(オーストラリア)の出身地だったからだといわれる。(登山とナショナリズムの関係は興味深いテーマだ。なんだかんだ言って、登頂者は国旗を立て、あるいは持って、写真を撮る)

P43
しかし万一、二人が初登頂して帰還したとしても、当時のドイツ社会はドイツ人以外の成功を、もろ手を挙げて喜んだかどうか。後年のブールやメスナーの例を思うとはなはだ疑問である。(メスナーはイタリア・南チロル出身だが、そこはドイツ語圏なのでドイツ登山隊に呼ばれる。ご存じのように、ナンガ・パルバットで弟を失い、その時の対処で十数年のマラソン裁判となる。91年ヘルンリヒコッファーが75で死去したのち遺族と和解。メスナーの名誉は回復され「赤い信号弾」も復刊。さらに「裸の山」も刊行。P109を読んでみて)

【おまけの感想】
本書が興味深いのは、内容もさることながら、面識ある方が登場すること。
Mさんとは、柏木で一緒に酒を飲んだし、エピソードも直接聞いた。
Eさんには、城ヶ崎で会った時、伊豆の観光図書をいただいた。「観光好きでしょう」、と。

【参考図書】

「現代ヒマラヤ登攀史8000メートル峰の歴史と未来」

【誤植】
P231
アンデスヤカフカスなど
  ↓
アンデスやカフカスなど
(校正者見逃した?)

【ネット上の紹介】
登山史に刻まれた命の軌跡。
マロリー、アーヴィンの謎―エヴェレスト 1924
ジルバーザッテルの敗走―ナンガ・パルバット 1934
人類初の栄光の陰に―アンナプルナ 1950
高所キャンプからの脱出―K2 1953
メスナー兄弟の下降―ナンガ・パルバット 1970
人食い鬼からの脱出―バインター・ブラック 1977
見捨てられた攻撃隊―ミニヤコンカ 1982
日本人無酸素登頂の葛藤―エヴェレスト 1983
ブラックサマーの生還者―K2 1986
六千メートルの宙吊り救出作戦―トランゴ・タワー 1990
公募登山隊の破綻―エヴェレスト 1996
北壁からの生還―ギャチュン・カン 2002
七四〇〇メートルの国際救助隊―アンナプルナ 2008