「樹上のゆりかご」荻原規子
本作品は、2002年に理論社から出版された。
その後、出版社を変えながら再版され続けた。
今回は、角川からの文庫化である。
既に持っているから、買う必要はないはず。
しかし、今回は書き下ろしの短編が収録されている。
気になるので、購入することにした。
久しぶりの再読であるが、面白かった。
レベルの高い作品で、今読んでも、素晴らしいと感じる。
もし未読の方がいれば、自信を持ってお薦めする。
P253
「もっとも、ヘロデは兄王を殺して王座について、王妃までも受けついだのだから、その点がよくないのかもね。これってハムレットの母親と同じ構図なの、知っていた?ハムレットは時代が下るから、親近相姦とは言わないけれど、不倫だと非難している。それにしても、ヨカナーンもハムレットも、どうしてそんなに女性の側をあげつらうのかしらね。王妃にとっては、わりとどうしようもなかったと思わない?」
タイトルの意味が、P256から分かる。
即ち、マザーグースから来ている、と。
ハッシャバイ、ベイビイ、樹のてっぺん
風が吹いたら、ゆりかご揺れる
枝が折れたら、ゆりかご落ちる
赤ちゃん、ゆりかご、もとろもに
P258
「これが女神のいる古代世界だと、私は思うの。受けとめてくれる人のいる世界。そういうものは、あとかたもなく壊れたわ……もうこの世のどこにも残っていない。今の世の中、だれがそんなことを本気で信じられる?ヨカナーンの神は罪と罰を語るばかりだし、サロメは、死ぬことでしか舞台を終わらせることができないのよ」
【書き下ろしの短編について】
1年後の上田ひろみが描かれる…つまり高校3年になった姿である。
10ページなので、あっという間に読み終えてしまった。
それでも、気になっていたので、短編でも「その後」を垣間見られてよかった。
有理は登場しない…そこが残念なところ。
【おまけ1】
このあと、引き続き「エチュード春一番」の再読に入った。
(書き下ろし短編があまりに短いから)
まったく異なる作品だけど、上田ひろみが大学生になったら、こうなんじゃないか、と思わせるものがある。
思った以上に共通点を感じる。
上田ひろみ=渡会美綾
鳴海知章=澤谷光秋
近衛有理=有吉智佳
江藤夏郎=モノクロ
キャラクターだけでなく、物語の構造としても似ている。
問題キャラ=精神を病んでいるとも言うべきキャラクターが、問題行動を起こして、周りを巻き込んで騒ぎを起こす、って設定である。
異常な愛情=執着からくる、常軌を逸した行動、も似ている。
ただ、物語に流れる「雰囲気」はかなり異なる。
「エチュード春一番」は、少し軽い感じ、ラノベ風に描かれる。
私は、「樹上のゆりかご」の雰囲気の方が好きだけど。
それは、各人の好みで分かれるでしょうね。
【おまけ2】
2002年、これが最初に理論社から出版された時の表紙
2006年、中央公論新社から出版された2回目の表紙
2011年、中公文庫版…この表紙もいい感じ、学園祭準備の雰囲気が出ている
そして、2016年、先日出版されたばかりの角川文庫版…初期の雰囲気に戻ったような、なお、この画像では分かりにくいが、描画ではなく刺繍されている(拡大して見てみて)
【ネット上の紹介】
旧制中学の伝統が色濃く残る辰川高校。上田ひろみは、学校全体を覆う居心地の悪さを感じていた。合唱祭で指揮者を務めた美少女有理と出会ってからは更におかしな事が起き始める。学園祭の準備に追われる生徒会へ届いた脅迫状、放火騒ぎ、そして、演劇で主役を演じた有理が…!樹上におかれたゆりかごのような不安定な存在「学校」。そこで過ごす刹那を描いた学園小説の名作が、書き下ろしの短編を収録して新たに登場。