【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「花桃実桃」中島京子

2011年06月14日 22時39分01秒 | 読書(小説/日本)


「花桃実桃」中島京子

先日「小さいおうち」を読んだが、わりと良かったので最新作「花桃実桃」も読んでみた。
父が亡くなったのを機に、OLを辞めて父の残したアパートの大家さんになる。
ところが、このアパートの住人、変なヤツばかり。(幽霊も出るし)
そしていちばんヘンなのは、大家さんだったりして。
いくつか文章を紹介する。

P66-67
「やらなきゃ、まずいかな」
「そりゃ、まずいでしょう、初盆だよ」
「しかし、めんどくさいな。誰か、人、来んのかな」
「来るのは、人じゃなくて、坊さんだよ。他人は、自分とこの盆で大忙しだもの。お兄ちゃんちと、私で、十分じゃないの。呼ぶほど、親戚もいないしさ。でも、お坊さんは呼ばなくちゃ。初盆だもの」
「なあ、さっきからおまえ、気になるんだけど、ウイボンじゃなくて、ハツボンじゃねえのか?」
「え?ハツボン?」
「ハツボンだろ。ウイボンじゃないよ。ウイボンって、おまえフランス語じゃ、ねえんだから。それよりどっちかつーと、ニーボンじゃねえ?」
「え?ニーボン?アラボンじゃないの?」
「なに?アラボン?聞いたことねえ。おまえ、あいっかわらず、漢字よえーな」


ちなみに、初盆=はつぼん。新盆=にいぼん。あらぼん。

P255-257
「The one close to me now,
even my own body
these too
will soon become clouds,
floating in different directions.」
(中略)
「これはかなり謎かけだった。あきらかに百人一首ではないし。花村さんが和泉式部を英語で読むとは知らなかった」
「私が、誰を?」
(中略)
「『近く見る人も我が身も/かたがたに/漂ふ雲とならむとすらむ』。これを見つけたときは衝撃だったよ。考えさせられた。いまは近く思っても、漂う雲のように別々の方向へ流れていくなんて悲しいと、そういう歌だよね、これは。つまり結局僕は、僕の都合だけを花村さんに押しつけて、磯際で船を破ることになりかねなかったんじゃないかと」
「磯際で船を破る?」


以上、文章紹介オワリ。
とぼけてるのか、ぼけてるのか、よくわからない花村さん。
なかなかユニーク、ではある。

PS
ちなみに、今まで私の読んだ中島京子作品は・・・
だいじなことはみんなアメリカの小学校に教わった」(=「ココ・マッカリーナの机」(改題文庫化)
「イトウの恋」
「平成大家族」
「小さいおうち」
そして今回の「花桃実桃」
私のいちばん好みは「平成大家族」かな。


【ネット上の紹介】
40代シングル女子まさかの転機に直面す。昭和の香り漂うアパートでへんてこな住人に面食らい来し方をふり返っては赤面。行く末を案ずればきりもなし…ほのぼの笑えてどこか懐かしい直木賞作家の最新小説。

この記事についてブログを書く
« 「突破者」宮崎学 | トップ | 「中央モノローグ線」小坂俊史 »

読書(小説/日本)」カテゴリの最新記事