【ぼちぼちクライミング&読書】

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「平成史」佐藤優/片山杜秀

2019年07月09日 11時00分20秒 | 読書(昭和史/平成史)
「平成史」佐藤優/片山杜秀
P43
片山:ストーカーは新しい人種ではなく、それを止めていた家族や共同体の方が壊れたと考えるべきかもしれません。

P49
片山:田中角栄の上の世代の政治家は旧軍の人脈などの暴力装置と結びついていた。けれど田中角栄は戦後の成金だった。だから暴力じゃなくて、金だった。

P62
佐藤:ルターはドイツ農民戦争で「権力に反抗する農民をできるだけ早く殺せ」と指導しました。権力に刃向かって傷ついた魂は復活できないから、魂が傷つくまえに殺せ、という論理です。
そのロジックはオウムのポアに活かされている。

P75
片山:97年11月に山一證券、三洋証券、北海道拓殖銀行と立て続けに潰れた。終身雇用の安心感と年功序列の秩序感はあそこで喪失しましたね。

P81
佐藤:昔は自殺の大蔵、汚職の通算、不倫の外務といわれていたことはありますが、ある時期から外務省が三冠王みたいになりましたよね。

P145
片山:戦死者が出ても身分制度と葬儀の形式が対応していた仏式だと弔いようがない。(中略)国難に殉じた人を分け隔てなく神として祀るのは神社がいいと考えた。幕末の中で急ごしらえされたシステムから、維新の大業に殉じた「官軍」の側だけを祀る靖国神社ができたわけです。

P217
佐藤:(2010年)6月、小惑星イトカワを観測した探査機はやぶさが約7年ぶりに地球に戻ってきた。これで日本が大気圏外から任意の場所に何でも落とせる能力を持つことを世界中が知った。
片山:北朝鮮のミサイルなんて比べものにならない究極の兵器ですね。

P237
片山:3.11の前に銀座が暗くなったのは、73年と79年のオイルショックでした。オイルショックが起きたから日本中に原発が増えた。そして原発事故でまた暗くなる。業の深さを感じますね。

P253
佐藤:もしも米朝関係が正常化され、日朝の国交が回復したら何が起きるか。日米の企業は、北朝鮮の1日100円~200円程度の労働力に目を付けるでしょう。安価な労働力を目的に北朝鮮にどんどん企業が進出する。同時に大量消費文明が入り込み、北朝鮮の内側から崩れて政権は持たなくなる。

山口組の機関誌に掲載された川柳
P328
指一本 スマホと俺を つかう妻
酒飲んで 出るのは愚痴と 腹ばかり
(ヤクザとサラリーマンの心情に差がない、と)

北朝鮮はサリンを弾頭に装着出来るか?
P380
佐藤:これはありえない話です。だってサリンは熱に極めて弱いから高熱を発する弾道ミサイルに搭載したら毒性はなくなります。
(新型サリン、新型弾頭をロシアが開発してシリア経由で北朝鮮に入った可能性があるかもしれない、と)

P397
佐藤:そもそもいま地上に核基地を造ってもまったく意味を持ちません。先に核攻撃を受けたら全滅してしまうからです。核の抑止力を発揮するには潜水艦発射弾道ミサイルしかない。

P427
佐藤:恵まれていたが、幸福感はない。幸福感は乏しいが、恵まれてはいた。平成とは不思議な30年だったとはいえますね。そして平成を生きた私たちが大変なツケを次の世代に背負わせてしまった。私たちはそれを自覚しなければなりません。

【ネット上の紹介】
混迷の30年をぶった斬り!何が起きたか、なぜ起きたか。同時代に生きる二人が政治、経済、事件、文化を縦横無尽に語り尽くす。文庫版新章として「平成が終わった日」収録。ブック&シネマリスト50も充実!◎福島原発事故(2011年)の予兆は、JCO臨界事故(1999年)にあり。◎日本の「右傾化」は、PKO協力法(1992年)から始まった。◎ピケティが予言していたゴーン逮捕(2018年)。時代を通覧することで初めて見える平成の因果――バブル崩壊、オウム真理教、小泉劇場ほか、あらゆる事件は、すべてが裏でつながっていた。
第1章 バブル崩壊と55年体制の終焉―平成元年→6年(1989年‐1994年)
第2章 オウム真理教がいざなう千年に一度の大世紀末―平成7年→11年(1995年‐1999年)
第3章 小泉劇場、熱狂の果てに―平成12年→17年(2000年‐2005年)
第4章 「美しい国」に住む絶望のワーキングプアたち―平成18年→20年(2006年‐2008年)
第5章 「3・11」は日本人を変えたのか―平成21年→24年(2009年‐2012年)
第6章 帰ってきた安倍晋三、そして戦後70年―平成25年→27年(2013年‐2015年)
第7章 天皇は何と戦っていたのか―平成28年→30年(2016年‐2018年)
文庫版新章 平成が終わった日―平成30年→31年(2018年‐2019年)

「その子の「普通」は普通じゃない 貧困の連鎖を断ち切るために」富井真紀

2019年07月07日 19時14分48秒 | 読書(風俗/社会/貧困)
「その子の「普通」は普通じゃない 貧困の連鎖を断ち切るために」富井真紀
 
宮崎県で「子ども食堂」などの支援活動をしている著者による
子ども貧困問題をテーマにした作品。
自伝が大半を占めるが、実態が非常にリアルに再現される。
父はギャンブル依存症、母は著者を産んだ半年後に失踪。
 
 
中学卒業後、家出をして東京へ行く、年齢を偽って夜の仕事をするが、
そのスナックに警察の手入れが入る
P85
「万事休すだ、宮崎に送り返される!ばあちゃんは泣くだろうな、お父さんは怒りまくるだろうな。でも、これも自業自得だ」。
あきらめた瞬間、ママが私の頭を思いっきり押さえつけて、カウンターの下にもぐらせた。そして耳元で、「裏口から走って逃げな!二度と戻って来るんじゃないよ!元気で生きなよ!」と、囁いた。
 
保険証が失効した場合の対処
P146
今なら「無料低額診療」という制度があります。生活保護受給者であるとか低所得者であるなどの経済的理由や、DVの被害者で住民票を移したなどの事由から、健康保険証をもっておらず、病院にかかれない人がいます。そういう人を対象に、無料もしくは定額で、診療を受けられるようにする制度です。
 
ギャンブル依存症の父との縁を切るための努力
P159
私という身内がいるのにもかかわらず、父を生活保護受給者にする。それでも父のケースは不正受給に相当しないことを知り、安心したのです。
この時から父は私の家を出て、生活困窮者を支援する団体に紹介された住居でひとり暮らしをすることになりました。
 
姉とも縁が切れる
P162
姉の人生は姉のもの、私の人生は私のもの。
苦しかろうと楽しかろうと、それぞれの人生。
そう考えることにしました。姉の存在が私に苦痛をもたらすものなら、離れて行ってもかまわない。もう探さない、もう意識しない、それでいいと思っています。
今でも姉の消息は不明なままです。生きているのか死んでいるのかさえわかりません。
 
【感想】
産みの母と一度だけ会うシーンがある。
しかし、感動の再会と思ったら、娘に金の無心をする。
著者はこれにより、母と縁を切る・・・そのシーンも印象深い。
読んでいて、格差とはこういうことか、と。
負の連鎖を断ち切るためのヒントがある。
読んでみて。
 
【ネット上の紹介】
自らも壮絶な半生を乗り越え、児童虐待防止の活動や、「子ども食堂」など生活困窮者への取り組みがメディアでも大きな反響を呼んでいる著者の、「負の連鎖を断ち切るため」のリアルな提言。子どもの7人に1人が貧困というこの国で私たちにできることが、きっとあります。
目次
その子の「普通」は普通じゃない
親の人生に巻き込まれる子どもたち
食べるためにたどりがちな道
気がつけば虐待する親に
その日暮らしの金銭感覚
「普通の家庭」がわからない

「信太郎人情始末帖」シリーズ 杉本章子

2019年07月04日 20時20分33秒 | 読書(歴史/時代)
「信太郎人情始末帖」シリーズ 杉本章子

信太郎人情始末帖シリーズ全7巻を読んだ。
これは面白かった。
最初、ミステリ要素の高い捕物帖であったが、
「火喰鳥」あたりから家族小説になってきた。
どちらも面白いが、私の趣味としては後半の方がより面白く感じた。
だから、最後の4冊は1日2冊のペースになった。

この面白さは、宇江佐真理さんの「髪結い伊三次」シリーズに匹敵する。
ということは、相当な面白さ、と言うことだ。
「髪結い伊三次」シリーズ同様、繰り返し読みたくなる内容だ。
タイトルは次のとおり。

第1巻『おすず』
第2巻『水雷屯』
第3巻『狐釣り』
第4巻『きずな』
第5巻『火喰鳥』
第6巻『その日』 
第7巻『銀河祭りの二人』

まだ続けようと思えば続編が出そうな終わり方だけど、もう出ない。
なぜなら、著者が亡くなっているから。
2015年12月4日、乳癌で死去、62歳とある。
ちなみに、宇江佐真理さんと親しかったそうだ。
宇江佐真理さんは、同じ年の前月の11月7日、66歳で亡くなっている。
同じく、乳癌である。
お互い寂しくないように、連れ添って亡くなったかのようだ。

未読の方は、本シリーズも、「髪結い伊三次」シリーズもお薦め。
読んでみて。

【注意】
文庫本で読んだ場合、1巻目の「解説」を読んではいけない。
2巻目以降の物語の流れをネタバレさせているから。
腹立たしいといか、怒りを感じる。
(素人の方なら分かる、プロがやったらアカンやろ)

【おまけ】
昔は、時代小説というと男性作家ばかりだった。
今は、女性作家も増えた。
男性作家は、剣戟シーンが巧いが、登場する女性の描き方が平板で紋切り型になってしまうきらいがある。
女性作家は、登場する女性1人1人を個性的に描き分けている。
そこが魅力である。
その代わり、チャンバラ・シーンはないけど。
(秋山香乃さんは、女性作家だけど、剣戟シーンを描かれていて、けっこう巧い)

【ネット上の紹介】
おすずという許嫁がありながら、子持ちの後家と深みにはまり、呉服太物店を勘当された総領息子の信太郎。その後おすずは賊に辱められ、自害して果てた。「一度だけ」とおすずが身を預けてきたあのとき、願いをきいてあげていたら…後悔の念を抱きながら、信太郎は賊を追う―。平成14年度中山義秀文学賞受賞作。

「昨日みた夢」宇江佐真理

2019年07月02日 19時56分41秒 | 読書(歴史/時代)
「昨日みた夢」宇江佐真理

江戸時代を舞台にした、お仕事小説。
亭主が行方不明で、実家に戻ったおふく。
実家は口入れ屋、即ち、人材派遣業。

P14
奉公人を正式に採用するかどうかは、少し様子を見てから決めることになっている。その時に改めて人請証文(身元保証文)に三文判をつき、寺請証文を一緒に差し出すことになっている。
 人請証文は一分、寺請証文は百文掛かる。
 寺請証文は耶蘇宗でないことを証明するためのもので、きまり屋の檀那寺から出して貰っていた。

P16
一般的に三月五日が出代りの日と決められ、奉公人はこの日で一年契約が切れる。

【ネット上の紹介】
亭主の勇次が忽然と姿を消し、実家の口入れ屋「きまり屋」に出戻ったおふく。色気より喰い気、働き者で気立てのよいおふくは助っ人女中として奉公先に出向き、揃いもそろって偏屈な雇い主たちに憤慨したり同情したり。一筋縄ではいかない人生模様を目の当たりにするうち、自分も前を見て歩いていこうと心を決める―。市井人情小説の名手が渾身の筆で描ききった江戸のお仕事小説。単行本未収録の短篇「秋の朝顔」併録。

「ギャングース・ファイル 家のない少年たち」鈴木大介

2019年07月01日 19時12分45秒 | 読書(犯罪)
「ギャングース・ファイル 家のない少年たち」鈴木大介

少年犯罪ルポ。
相当な年月をかけて、少年たちの背景、育ちから調べて書いている。
その犯罪の実態が詳細に描かれる。

P13
少年はなぜ犯罪者になるのか。犯罪者になった少年は、何を思うのか。
(中略)
「犯罪者はけしからん」というのは、正論だ。
 社会には治安と秩序が必要だ。だが犯罪者が犯罪者である背景を知らずに、単に「けしからん」と切り捨てるような良識ある者こそが、僕は世に犯罪を蔓延らせる元凶だと考えている。

P145
女という帰属先は、彼らを強制的に“市民生活”に引き戻す。子どもを認知するためには住民票が必要だし、結婚したければ戸籍謄本を取らなければならない。

ホストに入れ込む女について
P171
「(前略)精神的に健康な女なんて、自分の財布が許す範囲でしか遊ばないから、ダメなんですよ。病んだホストが呼ぶ病んだ女は、ちょっとプッシュすればドカッとヤバい遊びをしてくれる。こういう女からきちんと集金していけば、店はどんどん大きくなる」

【ネット上の紹介】
親と社会に棄てられた少年が、生きるために選んだのは犯罪だった。少年院で出会った仲間と重ねる、強盗、詐欺。大金を得ても満たされない、居場所と家族を求める心。血縁も地縁もなく、犯罪者だが被害者でもある少年たちは孤独の中で何を思うのか。原案漫画も人気沸騰、少年犯罪の現実を抉り出す衝撃のルポ!
序章 老兵の予言
第1章 邂逅
第2章 18歳の振り込め詐欺日記
第3章 予行演習
第4章 カラフルな男たち
第5章 楽園
第6章 最弱ホストの居場所
第7章 帰還兵
第8章 共食いの時代
第9章 出発