原題:『先祖になる』
監督:池谷薫
撮影:福居正治
出演:佐藤直志
2012年/日本
被災以上に厳しい現実
このドキュメンタリー作品は東日本大震災後39日目から始まる。岩手県陸前高田市で農林業を営む77歳の佐藤直志の自宅内は、手付かずのままであるが、「陸前建築」によって建てられた佐藤の家の大黒柱が津波に遭っても全く傾くようなことがなかったことが証明される。地震や津波という自然の猛威になすすべがなく、消防団員の長男を亡くしたのであるが、破壊された日常を取り戻す手段もまた自然の恩恵によるもので、森から伐採した木によって新たに自宅を立て直す計画を立てる。木を伐採した跡には必ず接木をしたり、使われていなかった田んぼを借りて稲を植えたり、荒れた土地に蕎麦の種を蒔いたりするまでもなく、勝手にきゅうりの芽が生えていたりするのであり、それは佐藤が銀杏の木を削って作った男性と女性の生殖器を祠に供えているように、成長のイメージとして描かれることになる。伐採された木は「けんか七夕」の山車を組み立てる際にも利用されて、被災者の力の源となっているのであるが、このような木にまつわる「物語」は男性には受け入れられても女性にはなかなか納得してもらえず、佐藤は、安心して暮らしたい妻と別れて暮らすことになるところが被災以上に厳しい現実として突きつけられることになる。
ところで好きな映画を訊かれた佐藤は『ローマの休日』(ウィリアム・ワイラー監督 1953年)を挙げており、このような日本の田舎のおとうさんをも魅了するオードリー・ヘプバーンの偉大さを改めて思い知らされた。