原題:『SONG FOR MARION』
監督:ポール・アンドリュー・ウィリアムズ
脚本:ポール・アンドリュー・ウィリアムズ
撮影:カルロス・カタラン
出演:テレンス・スタンプ/ヴァネッサ・レッドグレイヴ/ジェマ・アータートン/アン・リード
2012年/イギリス
自虐を突き抜ける感動について
同種の作品としてダスティン・ホフマンが監督したイギリス映画『カルテット! 人生のオペラハウス』(2012年)を観たばかりであり、脚本を比較するならば、本作は主人公のアーサー・ジョンソンと長男のジェームズとの不仲の原因が描かれておらず、ジェームズが一人で娘を育てている原因も明らかにされない。クライマックスもエリザベスがリーダーを務める老人たちのコーラスグループがコンクールの会場まで出向きながら突然‘規定外’として一旦は出場出来ないことになったものの、アーサーのゴリ押しで出場して3位を獲得してしまうなど、物語に全く深みが無いのであるが、『カルテット! 人生のオペラハウス』に無いものが本作にはある。『カルテット!』はクラシックだったこともあり、ラストシーンで本人による歌唱が無かったのであるが、アーサーの妻であるマリオンを演じたヴァネッサ・レッドグレイヴが自ら歌うシンディ・ローパーの「トゥルー・カラーズ(True Colors)」やアーサーを演じたテレンス・スタンプが自ら歌うビリー・ジョエルの「ララバイ グッドナイト・マイ・エンジェル(Lullabye (Goodnight, My Angel))」は拙いながらも一聴するだけの価値はあり、それだけが本作を観る価値だと言っても過言ではないであろう。
それにしても老人コーラスグループにナールズ・バークレイ(Gnarls Barkley)の「クレイジー(Crazy)」やサルトン・ペッパー(Salt-n-Pepa)の「レッツ・トーク・アバウト・セックス(Let's Talk About Sex)」を歌わせる自虐振りは徹底しており、だからラストで息子の電話に出ないアーサーは寝ているようで、実は死んでいるのだと思う。