原題:『Kon-Tiki』
監督:ヨアヒム・ローニング/エスペン・サンドベリ
脚本:ペッター・スカヴラン/アラン・スコット
撮影:ガイア・ハルトリ・アンドレセン
出演:ポール・スヴェーレ・ハーゲン/グスタフ・スカルスガルド/アグネス・キッテルセン
2012年/ノルウェー
「泳げない」というコンプレックス
作品の冒頭は、おそらく5歳くらいの主人公であるトール・ヘイエルダールが遠くの方から雪原をゆっくりと正面に向かって歩いてくるシーンから始まる。トールは後から追いかけてくる仲間たちが制止するのも聞かずに一人で海に浮かぶ漂流に飛び乗り、間もなく足を踏み外して海中に落ちてしまうのである。すぐに友達に救出されるものの、元々なのか、あるいはこの事故がトラウマになったのかはっきりしないのであるが、トールは泳ぐことが出来なくなってしまう。
泳げないというコンプレックスは意外とトールにとっては深刻な問題だったように思う。いよいよコン・ティキ号がポリネシアのツアモツ諸島に到着しようとした時に、コン・ティキ号は波を利用して座礁を防ごうと計画し、13回目の波で飛び越えようとしたのであるが、9回目の波で飛び出してしまい、コン・ティキ号は座礁し、トールは海に投げ出されてしまう。しかし既にトールは浅瀬におり、立ち上がると海から陸に向かってゆっくりと歩いてくるのであるが、そのシーンは彼が5歳の時のシーンと同じ構図で描かれることになり、それはまるで海に沈み長年抱えていたトラウマを海から自力で‘生還’することで解消しようと試みているように見える。つまりトール・ヘイエルダールは学者というよりも真の冒険家だったのだと思う。