原題:『木乃伊の恋』
監督:鈴木清順
脚本:田中陽造
撮影:森喜弘
出演:渡辺美佐子/川津祐介/浜村純/大和屋竺
1973年/日本
木乃伊を突き動かす「物語」について
主人公の則武笙子は編集の仕事で国文学者の布川の家を訪れ、病気で床に伏せている布川の代わりに上田秋声の小説『春雨物語』の口語訳の口述筆記をしている。そしてその布川が語る物語によるストーリーが展開される。
江戸時代あたりだろうか、主人公の正次は母親が心配するほど昼夜勉学に勤しんでいたのだが、家の周囲から鉦の音が聞こえるようになり、地面を掘り起こしてみると百余年前に入定した僧の木乃伊(ミイラ)を発見する。やがてその木乃伊が精気を取り戻し、村の住職に祈祷してもらうのだが、何故か祈祷中に住職が突然死してしまい、性欲の塊のような木乃伊に呆れた正次は木乃伊に「入定の定助」と名付けて下男として扱うようになる。
色白になったら相手をしてやると言われた定助は白塗りで現れるのであるが、まともに相手にされず、定助の相手をしたのは夫を失って白痴と化した寡婦だけだった。7日7晩セックスに励み、8日目に寡婦は子供を産むのであるが、寡婦の体にまとわりついていたのは色狂いの無数の蛆のような菩薩たちで、逃走を図った定助は大八車と共に谷底に落ちて亡くなる。
ようやく村が静けさを取り戻し正次は嫁を貰うことになるのだが、嫁と交わろうとするたびに鉦の音が聞こえるようになり、正次は嫁を抱くことができず嫁は実家に帰ってしまう。
物語は現在に戻り、笙子は口述筆記を終える。笙子は海軍の軍人と結婚していたのであるが、その1年数カ月後に夫は防空壕の崩落で亡くなっており、既に12年の月日が流れていた。笙子を大学で教えていた布川は彼女の夫のことも知っており、2人が一緒に写っている写真を笙子に与えるのだが、布川に感じる性欲に身の危険を感じた笙子は布川の家を後にする。
帰宅途中で笙子はある男と出会い、体を許すのであるが、サングラスを外したその男の顔は布川そっくりだった。その直後、布川の家の家政婦が、まるで現代の木乃伊のような布川の死を笙子に告げに来るのである。
「木乃伊の恋」とは何なのか断定することは難しいのだが、「物語」の強さこそ人を魅了し、逆に言うならば「物語」を持たない人間は簡単に「物語」に飲み込まれてしまうということであろう。