原題:『ボクの妻と結婚してください。』
監督:三宅喜重
脚本:金子ありさ
撮影:清久素延
出演:織田裕二/吉田羊/原田泰造/高島礼子/大杉漣/小堺一機/込江海翔/森カンナ
2016年/日本
平成版『生きる』とはならない理由について
いわゆる「病気もの」の作品において医師から余命を告げられた患者の方が積極的に生き直すというストーリー展開は黒澤明監督の『生きる』(1952年)の主人公で市役所職員の渡辺勘治を思い出させる。渡辺は胃がんで本作の主人公の三村修治はすい臓がんという違いはあるが、すい臓がん以上に修治が患っていた深刻な病は「職業病」というもので、バラエティ番組の放送作家として多忙を極めていた修治は自分が亡くなった後も自身が培ってきた好奇心によって家族を楽しくさせられると確信していたのであろうが、ラストで明かされるように却って妻の彩子や中学校受験の準備をしていた陽一郎のみならず、全くの赤の他人であったインテリア会社社長の伊東正蔵まで巻き込んで迷惑をかけてしまっているのである。人気作家が陥りがちなのであるが、修治は自分が「スベる」可能性がないことはないことをもっと真剣に考えるべきだったのである。