原題:『この世界の片隅に』
監督:片渕須直
脚本:片渕須直
撮影:熊澤祐哉
出演:のん/尾身美詞/細谷佳正/稲葉菜月/牛山茂/新谷真弓/小野大輔/岩井七世
2016年/日本
日本のアニメーションの第3の可能性について
まず基本的な作画が素晴らしい。この、今にも絵の輪郭が崩れそうな危ういタッチを見たのは『かぐや姫の物語』(高畑勲監督 2013年)以来ではないだろうか。時代背景を勘案するならばこのタッチが選ばれたことは決してたまたまではない。それは主人公の浦野すず(後の北條すず)が絵を描くことが好きであることと大いに関係しているだろう。例えば、海の波にうさぎを見いだすように、すずは絵を描くことで現実を捉えようとしているのである。
その危ういタッチが崩れるシーンが目の前で黒村晴美を亡くした時で、すず自身も利き手の右手を失うと同時に本作の作画自体が崩壊し、デッサンからやり直すことになり、逆に、広島市に原爆が投下されたシーンにおいては、呉市に住んでいるすずたちには当初ピンと来なかったために作画が乱れることがなく、ここに却ってリアリティーを感じるのである。ここには『君の名は。』(新海誠監督 2016年)、『GANTZ:O』(川村泰監督 2016年)と並ぶ日本のアニメーションの第3の可能性を見て取ることができる。