(夜は更ける@内山駅)
もうだいぶ時間も遅くなってしまった。宿も取らずの日帰りの身であるから、そろそろ店仕舞いをして帰り支度をしてもいい頃合いなのだけど、何となく黒部線から離れがたく。もうすっかり人の姿も消えた宇奈月へ向けて、何かを求めて集落を彷徨う異邦人。あまり夜にヨソモノがウロウロしていては相当に怪しまれてしまいそうな重い闇に沈む内山の集落を抜け、朝も訪れた内山の駅へ。蛍光灯の周りをバタつく虫と、壁をよじ登ってポスターの裏に隠れたカナヘビが迎えてくれた。
人間にとって、あまりにも深い闇は、それはそれは怖いもの。内山の駅に迫る黒部の前山が、想像以上の漆黒の威圧感で視覚に襲い掛かって来る。ホームの外灯や待合室は頼りないながらも明かりが灯っているので、それだけでも気持ちが少し軽くはなるのだが。錆びて曲がってしまった駅名標を、まだ若く色付き途中の紫陽花が囲んでいて、そのほのかな色合いも梅雨の風景らしくていいものだ。思えばこの富山行ももうひと月前の話。ホームの紫陽花も、今はもう色付きを終えて枯れているんだろうな。そろそろ次の旅の支度をしたくなる今日この頃、オリンピックが始まる前に・・・とも思うのだけど。
古い木造の駅舎を、板やトタンで補修して何とか立っているという感じの内山の駅。風雪に耐えて耐えて使われて来たホームも歪みが酷く、どこが水平なのか分からなくなる。供するにギリギリのラインで運営されているものも多い地鉄の鉄道事業、こと設備に関しては、過日の東新庄駅脱線事故の調査報告を読まずとも、ヒトモノカネの全てが足りないのは自明の理。これは地鉄に限らない地方私鉄の現状でしょう。これを「安全に対する投資は企業の自助努力で行われるべき」という突き放した「べき」論で会社を追い詰めては・・・残っているのは国土交通省に対する廃止届の提出しかない。そうならないためにも、地元自治体の積極的な関与と、建設的な議論が必要不可欠なものと思われます。
去って行く電車のテールランプが、闇の中で頼りなげに揺れた。
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