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明日香村の観光振興は、こんなにスゴい! 観光地奈良の勝ち残り戦略(96)

2015年06月20日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
一般財団法人南都経済研究所の『ナント経済月報』2015年4月号の巻頭に「奈良県明日香村にみる観光振興策」(PDF)という12ページもの堂々たるレポートが掲載された。綿密な取材に基づき、村の観光振興への取り組みが詳細に紹介されている。執筆されたのは主席研究員で中小企業診断士・社会保険労務士の丸尾尚史(まるお・ひさし)さんである。

早くに当ブログで紹介するつもりだったが、このボリュームに圧倒されて躊躇していた。しかしとても参考になる話なので、tetsuda流にバッサリと刈り込んで、以下に紹介することとしたい。まずは「まえがき」と「まとめ」を一挙に紹介する。

(まえがき)
明日香村は、「明日香村特別措置法」により村内全域が歴史的風土保存の対象となっている。同法により自然の景観が維持され、数々の文化財が保護されているというメリットがある反面、厳しい開発規制によって建築物の形状や高さが制限されるため、村民が不便や負担を強いられることも少なくない。さらに、これらのことが人口の減少を助長する要因のひとつにもなっている。こういった特殊な状況の中にある明日香村は、役場、観光関連組織、地域住民の連携によって多くの課題を克服し、数々の施策の実施によって地域を活性化させてきた。

(まとめ)
1.観光振興の成功要因
(1)地域の特性を生かした戦略を策定し、実施している

「歴史的に大きな意義のある場所に泊まる」という付加価値が付いた教育旅行を実施。体験プログラムの内容は受入民家の裁量に任せ、都会に住む生徒にとって、普段の生活とは少し離れた貴重な体験を得る機会を提供した。

また宿泊施設が少ないという弱みを克服し、明日香村等での新たな宿泊(民家ステイ)を創出することで滞在時間を延ばし、明日香村で消費されるお金を増やしている。

(2)新規客およびリピーターの獲得を図っている 
教育旅行を誘致し、国内や海外から多くの生徒を迎え入れた。新規の学校がひとつ増えると数十人から数百人の生徒が一度に宿泊することから、大きな新規需要をもたらしている。

明日香村等に宿泊した生徒は、この地での宿泊体験を思い起こして、後になってここを再び訪れてくれる可能性がある(長期的にみたリピーター)。また、参加した学校が翌年にも再び参加する「リピート校」もでてきた。生徒は毎年変わるが、学校単位で考えるとこれもリピーターであるといえよう。

(3)顧客サイドにたった情報発信を実施
現在、ほとんどの観光地で情報発信を行っている。また、観光客が情報を入手するツールはホームページなどWebが中心である。明日香村では「あすかナビ」や「なら飛鳥京歴史ぶらり」の導入で情報収集がし易くなった。

ただ、役場、地域振興公社、商工会、観光協会などがそれぞれ独自のホームページを開設しているため、観光客にすればどれをみればよいのかわかりにくい。そこで、観光客の利便性を第一に考え、これらを集約することが予定されている。



トップとこの写真は「あすかナビ」のFacebookから拝借

(4)地域内の「巡りやすさ」を改善している
「あすかナビ」等の導入で、村内に点在する観光地へのアクセスがわかりやすくなり、バリアフリー情報の掲載で誰もが移動しやすくなった。また、これまでの周遊バス、徒歩と自転車が中心だった観光に、新たな観光手段が加わった。自動車で周遊するには所々に狭い道があり不便だったが、「MICHIMO」の導入によりこれまで自動車で通る機会が少なかった場所へのアクセスも可能となり、移動手段のバリエーションが増えた。

(5)近隣市町村との連携を密にしている
顧客目線で考えると、案内サインに記載される情報が市町村単位であることは不親切である。逆に市町村が近隣地域との連携を密にすることで観光客の利便性は向上し、満足度も高まる。

したがって、他の観光地も含めた観光案内サイン・案内地図の設置や「MICHIMO」の走行範囲の拡大などは、観光客にうれしいサービスである。また、観光案内サインに限らず地域を超えた連携は観光の振興に有効であり、近隣だけでなく連携の輪を奈良県、関西全体へと拡大させる必要もでてくるだろう。

2.終わりに
観光の振興においてなすべきことは、観光客を増やすことである。したがって、観光地に求められるのは、地域の特性を生かしながら顧客の志向や現在のトレンドに合うような非日常的な商品を提供することである。しかし、観光地がせっかく非日常性のメニューを用意しても、観光客がそのコンテンツに不満であれば意味がない。観光地を選ぶときに不満があれば、そもそもその地を訪れることはないし、訪問後であれば再び訪れることはない。

観光は地域に根ざすものであるから、一企業や一組織だけがいくら頑張ってもうまくいかない。また、観光産業だけの問題ではなく、地域住民や地域の中小企業などの理解・協力があってこそうまくいくものである。さらに、観光振興の取り組みは持続可能なものでなければならない。なぜなら、ブームのような一時的な観光客の増加は、ブームが廃れば観光客も激減するからである。

明日香村では豊富な観光資源をバックボーンにして、役場では明日香村全体をひとつのフィールドと捉える博物館づくりを進めている。そして、役場を中心に観光関連の組織そして地域住民がうまく協力・連携して観光振興に取り組み、着実に成果をあげているといえる。「すべては観光客のため」という考えに立ち、顧客目線で進める明日香村の観光振興への取り組みについて、今後もその持続的発展に注目していきたい。



写真は「県民だより」(2013年12月号)のサイトより。受入民家とフランス人高校生の対面

いかがだろう。この「まとめ」を読んだだけでも、明日香村の観光振興への取り組みが目に浮かんでくる。特に私が注目したのは「民家ステイ」など宿泊客誘致のくだりである。本文から引用すると、

(1)民家ステイ
民家ステイは、農家など普段村民が生活する場所をそのまま宿泊施設として利用し、農業体験や郷土料理づくりなどの体験プログラムを提供している。国内の中学・高校の修学旅行生・教育旅行生を受け入れる「国内教育旅行」とアジアや欧米、ヨーロッパ、中東等からの教育旅行生や交換留学生を受け入れる「インバウンド」がある。

平成24年に始まった「民家ステイ」の受入数は順調に推移し、平成26年度の宿泊数は3,217人泊となった。その内訳は、国内教育旅行は関東・東海地方を中心に2,202人泊、海外からはアジア諸国を中心に10か国から1,015人泊となっている。国内のいくつかの学校では次の年にも申し込むところが出てきている。

受け入れる民家は現在157軒で、明日香村を中心に高取町、桜井市、橿原市にあり、職業は農家(専業・兼業)だけでなく、自営業者や年金受給者もいる。特徴的なことは最低限守るべき基本的なルールはあるが、体験メニューは任されており、独自で決めていることだ。農業体験や家業体験、郷土料理づくりなど受入側の生活や趣味を生かした独自のメニューを数多く揃えている。また、他人の家に泊まる機会の少ない子どもへの気配りも欠かさない。

明日香村の「民家ステイ」の強みは、地域の団体、住民が協力して実施していることがあげられるが、なんといっても大きな強みは、「教科書に必ず載っている場所」ということ。「日本のはじまりの地」という歴史的風土を持つ明日香村は教育の観点からは申し分のない場所で、「宿泊」に歴史的な価値が加わった他の地域にない大きな強みを持っているといえる。経済的な観点からは、明日香村での滞在時間が延び、地域で消費される額も増加している。

今後の課題としては、
①「受け入れる民家が不足している」
②「質にバラツキがあり、全体として一定以上のレベルが確保できていない」
③「組織の受け入れ体制が脆弱であり、宿泊客が増えた時の対応が現状では難しい」
ことがあげられる。これらの対処法として、海外からの受け入れのための英語セミナーや民泊導入のガイドセミナー等を開催し受け入れ側の質の底上げや個々人のスキルアップに努めている。

【受入れ側の声:吉田智美さんのコメント】
他の地域にはないところとして、明日香村の景観と歴史がある。建築物に関しての制限があり、家は瓦葺、電線は地中化されるなど、昔ながらの景観が保たれている。村にはネオンサインもなく、日が落ちると辺りは真っ暗。都会にはない貴重な夜の景色が見られる。また、明日香村ならではの歴史・文化がある。古(いにしえ)の飛鳥時代の風を感じながら地元の人が知っている逸話やプチ教養を聞きながら観光資源を訪ねることに格別な思いを持ってくれている。「私たちも生徒を受け入れて、普段何気なく過ごしている住居や風景が実は貴重なものであると実感させられました」

また、教育旅行の受け入れにあたって、個人情報とコミュニケーションの2つの点に注意しているという。「今の時代、個人のことを話す時にはすごく気を使っています。必要以上に聞かないように注意しています。また、都会の子供は話すことが苦手な子が多い。普段、家族間での会話が希薄になっていることから、できるだけコミュニケーションをとるように心がけています」と生徒への配慮をみせる。

生徒が帰宅後に書いてくれたお礼の手紙をもらうとうれしいが、先日、宿泊した生徒が家族で再び明日香村に来てくれた。リピーターとなってもう一度この地を訪れてくれることは大きな励みになると話している。



写真は「ASUKA GUEST HOUSE」のホームページから拝借

(2)古民家を活用したゲストハウス
明日香村での宿泊は収容能力が足りていないにも関わらず、法規制等により新たな建設はなかなか難しい。そのような状況の中、近年増えつつある若い観光客や外国人に、「気軽に明日香に来てもらいたい」、「ゆったりとした時間を過ごしてもらいたい」、「日本国始まりの地を体感していただきたい」との思いから、古民家を活用した宿泊を行う「おもてなしの事業」を進めている。この事業は官・地・産が連携し、地域が一体となって取り組んでいる。

飛鳥寺近くにある築110年の古民家のリノベーションを実施。古民家の風情を残しつつ、8人部屋や蔵を改装した個室と共有のキッチンスペースなども備えた明日香村初のゲストハウス形式の宿泊施設として再生した。

運営は平成26年2月に設立した株式会社J-rootsが行い、個人旅行の外国人や若い日本人を主なターゲットとし、観光客が気軽に宿泊できるようにリーズナブルな価格を設定している。また、宿泊とともに地域資源を活用した各種体験プログラムも用意されている。
初年度である平成27年は、宿泊者4,800人(稼働率60%)、体験プログラム参加者1,500人、物販販売額400万円を見込んでいる。



森川村長のご挨拶(2/8の撮影)

いかがだろう。A4版12ページのレポートを強引に2枚程度にまとめた紹介したが、ポイントは押さえたつもりだ。本年2月8日(日)、明日香村の「奈良県立万葉文化館」でNPO法人「奈良まほろばソムリエの会」主催の記紀・万葉講演会があり、そこで村長の森川裕一さんの冒頭挨拶を拝聴した。村の奥深い歴史・文化を背景にした観光振興策を熱く語られ、村長の「本気度」が窺えた。「日本で最も有名な村」「必ず歴史教科書に登場する村」として、これからもたくさんの観光客を引きつけていただきたい。

丸尾さん、詳細なレポートを有難うございました!
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