■ 休日のひと時、カフェ・シュトラッセで読書しながら過ごす。
屋根を打つ雨の音、水が張られた田んぼを渡ってくる涼風、店内に静かに流れるピアノ曲。こんな時は川上弘美の小説がいいなあ、と思いつつ『屋根の日本史 職人が案内する古建築の魅力』原田多加司/中公新書を読む。
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先日(0714)見たNHKのテレビ番組「爆笑問題のニッポンの教養」で味覚の研究をしている九州大学大学院教授の都甲潔さんと爆笑問題が語り合っていた。
都甲教授によるともともと生物は「甘み」を好み、「苦み」を嫌う味覚を持っているのだそうだ。甘みは栄養、苦みは毒。どうもそのように生物にはインプットされているらしい。番組では単細胞生物の粘菌を使った簡単な実験によってそのことを実証していた。そういえば、♪あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ とホタルを誘う童謡があったっけ。
ところが、人はいつの間にかこの苦みを好むようになった。コーヒーを好むのもその一例だ。
苦みは毒というデータが人にもインプットされているためだろうか、苦いコーヒーを飲むときほんの一瞬、ためらいが生じる。さあ飲むぞ、その時たぶん自分にそう言い聞かせるのだろう。理性による本能の説得だ。
ところが、である。カフェ・シュトラッセのコーヒーを飲むとき、この一瞬のためらいは生じていないのではないかと思う。実に素直にというか、スムーズに飲むことができる。深煎りのコーヒーがまろやかで、甘みさえ感じるのだ。
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『屋根の日本史』原田多加司/中公新書
この本を読むと、古代から優れた建築技術が連綿と受け継がれ、磨かれてきたことが分かる。そしてそのような技術が今、廃れつつあることも。伝統的な建築文化を捨てたこの国の当然の帰結、悲しい・・・。
**近代以降のわが国の歴史は、有り体にいえば職人の矜持(きょうじ)をなし崩しにしていった過程であって、「近代化」や「画一化」という巨大なひき臼によって、ひき潰されていくという根の深い社会問題を孕んでいた。**
著者は家業の桧皮葺師・柿葺師の10代目 原田真光を襲名し、国宝や重要文化財など指定建造物の修復を多数手掛けている職人。