透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「古寺巡礼」

2009-07-07 | A 読書日記



『古寺巡礼』和辻哲郎/岩波文庫

■ 先日再読した『風土』は和辻哲郎の名著だ。この本は要するに「文化の相違を風土の相違にまで還元する」という試みだった。この指摘、実は『古寺巡礼』に出てくる。

**もしゴシック建築に北国の森林のあとがあるとすれば、われわれの仏寺にも松や檜の森林のあとがあるとは言えないだろうか。あの屋根には松や檜の垂れ下がった枝の感じはないか。堂全体には枝の繁った松や檜の老樹を思わせるものはないか。東洋の木造建築がそういう根源を持っていることは、文化の相違を風土の相違にまで還元する上にも興味の多いことである。**

和辻哲郎は直観力に優れた人だったと思う。『風土』そして『古寺巡礼』を読んでそう思った。和辻は文化的事象を観察することでその背景にある抽象的で曖昧模糊とした風土を読み取った。それは論理的な思考ではなく、直観力によってのみ可能だったと思う。

『古寺巡礼』が出版されたのは大正8年、1919年のことだった。和辻がちょうど30歳のときだ。序によるとその前年友人と奈良付近の古寺を見物したときの印象記だという。この本の読了後の感想を簡潔に記すことは難しい。

和辻哲郎の名著を再読できて満足、本稿ではそれだけを記しておく。