■ 『雁』 森鴎外/新潮文庫をようやく読み終えた。130頁たらずの中編だから、一気に読めば数時間の作品だが、隙間時間読書で時間がかかった。
主人公はお玉という若い女性。お玉は生後まもなく母親を亡くし、男手ひとつで育てられる。成人して結婚するも、男には国に女房も子供もあって、ある日出し抜けに尋ねて来る。そのとき、お玉は井戸に身を投げようとして家を飛び出すが、隣の上さんに止められる。
その後、お玉は末造という高利貸しの男にみそめられ、妾となる。
**(前略)その自分が末造の持物になって果てるのは惜しいように思う。とうとう往来を通る学生を見ていて、あの中に若し頼もしい人がいて、自分を今の境界から救ってくれるようにはなるまいかとまで考えた。**(77頁) そうして実際、岡田という大学生を知ることになるのだが・・・。
この小説を読んでいて樋口一葉の淡い初恋物語の「たけくらべ」を思い出した。鴎外の「雁」もお玉という大人の女性の「初恋物語」として読むことができる、そう思った。最後に寂しい別れが描かれているということだけは両作品に共通している。「たけくらべ」の方が好きだな・・・。
この際、鴎外の他の作品も読んでみようと、この文庫を買い求めた。『舞姫』についてカバーの裏面には**ドイツ留学中に知り合った女性への恋情をふりきって官途を選んだ主人公を描いた自伝的色彩の強いロマン**とある。『高瀬舟』や『山椒大夫』などとともにこの作品を読んだのは確か中学生のとき。なぜか長編だったような気がしていたが30頁もない短編だ。この歳になって読んでどんな感想を懐くだろう・・・。