■ 『黄いろい船』 北杜夫/新潮文庫の初読は1978年11月。昨日何回目かの再読をした。
収録されているのは中編の「こども」と短編の「黄いろい船」、「指」、「おたまじゃくし」、「霧の中の乾いた髪」、以上の5編。
一番好きなのは表題作「黄いろい船」。 30台前半の失業中の父親と4歳の娘のほのぼのとしたふれあいを描いた作品。
**三人の蒲団を敷くと、部屋は一杯で、女の子の小さな蒲団は壁際におしつぶされたような形で敷かれていたが、そこから寝言のような声が洩れた。
「パパ」
と、小さく言った。
「うん?」
と、男は狼狽したようにこたえた。
「オシッコかい?」
女の子はかぶりをふり、ふいにニッコリと笑ってみせ、それから横をむいて枕のわきにおいてあるクリさんの人形をちょっと撫でてから、さらに満足したように枕に頭をのせて目をつぶった。**(17頁)
「黄いろい船」は北杜夫が自作のなかで最も好んだ作品のひとつだそうだが、私もこの作品が好きだ。