■ 浅間温泉の奥まったところにある「手仕事扱い処 ゆこもり」は湯治場だった木造の家屋をほとんどそのままギャラリーとし、個性的な作品を展示している。ここで7月末まで開催されている小嶋三樹展『閑寂幽玄』を鑑賞した。
和紙にプリントして掛け軸に仕立てられた何点かの滝の作品が床の間を中心に展示されている。細密に描かれた水墨画のようだ、というのが第一印象。永い時の蓄積を感じるこの和室はこれらの作品の展示空間として実にふさわしい。
何本もの極々細い白糸から成る滝。不思議なことに滝の音は感じない、聞こえてこない。静寂の世界。しばらく作品と対峙していると、滝がその存在を、その生命をこちらに訴えていると感じてくる。
滝の周囲の豊かな色を消去して光だけに純化し、その濃淡によって対象の「存在」を表現している。写真の本来の意味もここにあるのだと思う。写真ではなく、フォトグラフ。
以前このブログに**フォトグラフを直訳すると「光画」になるだろうか。写真と訳したところに日本人の西洋の技術に対する驚きと冷静さを失っていた姿を見る思いがする。**と書いた。(過去ログ)
作品に近づいてみると闇に見えるところにも存在を主張する対象が写っている。対象を光だけで表現するという作家の意思もそこに感じる。写真とは何かという問いに対する明確な答えも。
写真家の小嶋さんにとって、風景を切り撮ることは創作の始まりにすぎないのだろう。そこからものが生命の証として自ら発する光、このイメージの表現に向けて創作しているのであろう・・・。
写真撮影可とのことだったので何枚か撮らせていただいた。