透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「華氏451」を観た

2020-09-26 | E 週末には映画を観よう

 レイ・ブラッドベリの『華氏451度』が映画化されていたことを知り、DVDを借りて観た。

本を読むことも所有することも禁じられた社会が舞台。隠匿されている本を探し出し、消火器ならぬ、昇火器で焼くことを仕事にしている昇火士(ファイアマン)のモンターグが主人公。偶然知り合った女性、クラリスによって本があること、本を読むことの意義に気づかされたモンターグが取った行動とは・・・。

知的美人のクラリスとモンターグの妻・リングを一人二役で演じたジュリー・クリスティ。既視感のある女優だな、と思って調べると「ドクトル・ジバコ」でラーラを演じていた。

本を所有することが禁じられている社会で、物語を暗記している人々が映画のラストに出てくる。物語を暗記している、と言えば古事記の稗田阿礼が浮かぶ。古事記は稗田阿礼が暗記していた物語を太安万侶が筆録したもの。

『華氏451度』を読むか、映画「華氏451」を観るか。どちらもおすすめしたいと思う。


 


「文学と私・戦後と私」江藤 淳

2020-09-26 | H ぼくはこんな本を読んできた

320

「ぼくはこんな本を読んできた」 このカテゴリーに載せる記事は本稿を含め、あと4稿。最後に取り上げる作品をあれこれ迷った。で、本稿は『文学と私・戦後と私』江藤 淳(新潮文庫2007年10刷改版)にした。


江藤 淳の随筆集のカバーデザインはもっと落ち着いた感じのものが合っているのではないかと思うが、このデザインには何か意図するものがあったのだろう。

あとがきには次のような件がある。**この戦後の二十八年という歳月のあいだに、私も人並の苦労はして来たような気がする。そういう私が、今までどうやら生きて来られたのは、文学というもののおかげであり、とりわけていえば、文章を書くという行為のなかに、喜びを見出して来たためだったような気がする。
そして、どんな文章を書くのが愉しいといって、随筆を書く喜びにまさるものはない。(後略)** 

江藤 淳の作品では既に「夏目漱石」を取り上げているが(過去ログ)、このような論考は気楽に書けるものではないということは容易に分かる。比して筆に任せて書くことは、楽しいだろうなぁ、と思う。

**自身の文学への目覚め、戦後の悲哀を喪失感。海外生活について、夜の紅茶が与える安息、そして飼い犬への溺愛――。個人の感情を語ることが文学であるという信念と、その人生が率直に綴られた、名文光る随筆集。**(カバー裏面の本書紹介文からの引用)


本書の初版:1974年