『時計遺伝子 からだの中の「時間」の正体』岡村 均(講談社ブルーバックス2022年)
■ 24時間の生体リズムはどこでどのように起き、どのようにからだの全ての細胞に伝わるのか・・・。実に精緻なシステムがからだの中に構築されていることを本書で知った。
本書の章立ては次の通り。章題から本書の内容の見当がつくと思う。
第1章 からだのリズムを作る時計遺伝子
第2章 生体リズムはどこで作られるのか?
第3章 時間情報の送信ルートを特定せよ
第4章 時計遺伝子は細胞分裂の時間も決める
第5章 光と時計遺伝子の深い関係
第6章 生活習慣病と時計遺伝子
第7章 時差ぼけはなぜ起こるのか?
第8章 視交叉上核の謎を解く
第9章 睡眠と時計遺伝子
第10章 なぜ生物は体内時計を持つようになったのか
全身の生体リズムを決める時計中枢が脳内の視交叉上核であること、からだの情報インフラである自律神経系によって「視交叉上核」の時間情報がさまざまな臓器に伝えられる。臓器の一つ、副腎が時計情報を受けて糖質コルチコイドというホルモンを分泌、血流によってからだの隅々の細胞まで時計情報が伝えられる。ざっくりと時間情報の伝達フローを書くとこのようになるが、時間情報伝達は実に複雑。そのシステムが精緻に構成されている。本書でこのような「なるほど!」を知ることができただけでも良かったと思う。
視交叉上核は両眼の網膜から出ている視神経が左右交叉する視交叉の直上にあって、眼から脳内に入ってきた光の情報が真っ先に伝わる場所。視交叉上核は強い自律性を持っているが、朝の自然光が眼に入ると、視神経で信号化された情報が視交叉上核に送られて、時計情報が補正され、からだの隅々の細胞まで伝わり、朝が始まるということだ。
そもそもなぜ生物は体内時計を持つようになったのか・・・。
生体の日周リズムは地球の自転による昼と夜の繰り返し、24時間のサイクルに同調してできたのだろうと、直感的には理解している。でもそれはなぜか、なんのために・・・。本書で、著者の仮説が説明されている。
太陽光の紫外線は細胞分裂に影響を及ぼす。オゾン層が形成される前、生命体は紫外線を避けて深海に潜って細胞分裂をしていた。この繰り返しの過程で体内時計の仕組みを得ることにいなったのではないか。そのことで光が届かない夜がいつ来るか予測できるようになり、細胞分裂を夜することで、多くの栄養が得られる浅い海で継続的に活動することができるようになった。なるほど!説得力のある仮設だ。
もちろん現在も身体と体内時計と細胞分裂はリンクしている。規則正しい生活はからだのリズムを整え、健康に良い効果をもたらす。現代は真夜中にコンビニで買い物をしたり、夜遅くまでスマホやパソコン、テレビを見る生活が一般化しているが、これが生体のリズムの外乱となる。生体リズムの乱れが様々な病気を引き起こす。このことが実証的に示されている。毎日規則正しい生活をするように心がけなくては、って今回はずいぶん真面目な締め。