■ ショートショートでよく知られている星 新一の作品は新潮文庫で何作も読んだが、どのような人生を送ったのか全く知らなかった。
『星 新一』最相葉月(新潮社2007年)を図書館で借りて読んだ。人生山あり谷あり、とよく言われるけれど、作家・星 新一の人生も山あり谷ありだったということが、この本を読んでよく分かった。それも高い山、深い谷の。
数多くの参考資料や遺品と130人を超える関係者への取材を基に、星 新一の人生が綴られている。本文がおよそ550ページもあるぶ厚い本だが、著者・最相さんのクセのない折り目正しい文章は読みやすく、予想よりだいぶ早く読み終えた。ここに星 新一の人生がどのようなものだったのか、この本を読んで知ったことを書くつもりはない。
あとがきを読むと星 新一の人生を書き留めるという大変な仕事を成し遂げたという満足感と、星 新一の人生の総体を改めて振り返って、そう、川の流れに譬えられる人生の源流から河口までを俯瞰して感慨にひたっている最相さんが浮かぶ。
前稿にこの本のあとがきを読んで泣いたと書いた。その理由(わけ)は、最相さんが、決定版とも評されるこの評伝を書き上げたことに感動したから。今年もまだまだ好い本とめぐりあうことができそうだ。
以下追記
**筒井康隆が『ボッコちゃん』文庫版の解説で訴えようとしたのも、星作品にまともに対峙しようとしない文壇と世間への批判であった。あとにも先にも、この解説ほど作家・星 新一に透徹した理解を示しつつ、かつ挑戦的な星論はない。新一から初めての文庫の解説者に指名された筒井は、代表作の解説を書かせてもらえるなんて大変な名誉だと思い、「これは書かないかんと思って書きました」と振り返る。**(413頁)
筒井康隆の『日本以外全部沈没』は小松左京の『日本沈没』のヒットを祝う会場で星 新一が発した言葉をタイトルにしたものだということはこの本を読むまで知らなかった。
星 新一の代表作として「ボッコちゃん」を挙げることに異論はないだろう。改めてこの本を読もうと昨日(14日)買い求めた。奥付を見ると、昭和46年5月25日発行、令和4年8月20日 128刷となっている。128刷、この数字が名作であることの証だ。
さあ、ボッコちゃん!