透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

火の見櫓のある風景を描く

2023-05-30 | A 火の見櫓のある風景を描く


松本市笹賀 2023.05.27


松本市笹賀 2023.05.30

 普段使っているスケッチブックの用紙は表面がかなり粗い。別の画用紙も試してみようと、画材店で平滑な画用紙を2種類買い求めた。やや平滑なものとかなり平滑なもの。透明水彩絵の具も普段とは違うものを使ってみた。

線描:ペンが画用紙の表面をほとんど抵抗なく滑らかに動くので、ペン先のコントロールが難しい。

着色:画用紙の上に置いた絵の具を筆で移動して、色の濃淡を調整する。違う色の絵の具の混色も画用紙の上でする。描画法を学んだことがないのでよく分からないが、おそらくこれは水彩画を描くときの基本的なテクニックだろう。

上のスケッチと下のスケッチは用紙が違う。下の用紙は平滑性が高く(などと表現するのかどうか)、線描するのが難しい。だが、着色は逆にしやすいような気がする。さて、スケッチブックを買うとすれば上か下か、どっち。線描しやすい上かな・・・。今使っているスケッチブックの用紙と今回使ってみた絵の具との相性も確認したい。


 


「橋ものがたり」を読み終えた

2023-05-30 | A 読書日記

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『橋ものがたり』藤沢周平(新潮文庫2018年75刷)の再読を終えた。

収録されている10編の作品の中では『約束』が一番好き。樋口一葉の『たけくらべ』とストーリーは全く違うけれど、どことなく雰囲気が似ているように感じた。どちらも淡い初恋ものがたりと括ることもできるだろう。

収録作品の中には橋の上で若い男女がその後の人生を決するような出会いをするものがたりがある。

『思い違い』。指物師の源作が両国橋の上でいつもすれ違う愁い顔がきれいな娘。言葉を交わすこともなかったふたり。ある日、帰りが遅くなった源作は、あたりが薄暗くなったころ、ふたりの男が娘の袖をひき、どこかへ連れて行こうとしているところに遭遇する。で、その娘を助ける。源作は気が弱くて、腕ずくで争うことがなかった、という、まあよくある設定。娘は源作に頭をさげて去っていく。源作は娘の名前も住所も聞いていなかった・・・。

源作がふたりの男から助けたときの娘を作者は次のように描写している。
**「ありがとうございました」
近寄ってきた女が言った。源作はわれに返って女を見た。薄闇の中に、女の顔が浮かんでいる。夕顔の花のように白い顔だった。二つの眸(ひとみ)が澄んで、源作を見つめている。**(95頁)

夕顔の花のようにという表現、ぼくは金子みすゞの「夕顔」という詩を思い出した(*1)。夜空の星が夕顔にさびしかないの、と訊くと、夕顔はさびしかないわ、と答える。星がそれっきり夕顔のことを気にかけないでキラキラ光っていると、夕顔はさびしくなって下をむいてしまうという内容の詩。「思い違い」の愁い顔がきれいだという娘(おゆうという名前だと分かる)のイメージがみすゞの「夕顔」に重なる。そう、ぼくが好きな夕顔に。

ある日、源作は親方に呼ばれる。仕事の相談かと思いきや、親方の娘の婿にという縁談話だった。どうする源作・・・。その後、源作は思いがけないかたちで娘の素性を知る。朝夕、橋の上ですれ違う娘は朝仕事に出て、夕方家に帰っていくのだろう。源作も読者もそう思い込む。だが・・・。

ラストが泣ける。好きな作品の『約束』もこの『思い違い』も信頼、人を信じることの尊さがテーマの作品だとぼくは読んだ。


*1『金子みすゞ童謡集 わたしと小鳥とすずと』金子みすゞ(JULA出版局 1984年第1刷 2003年第75刷)に収録されている詩