透明タペストリー

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「風神雷神」を読む

2024-02-09 | A 読書日記

 『風神雷神 上下』原田マハ(PHP2019年、図書館本)を読み終えた。

狩野永徳と俵屋宗達が共同制作した「洛中洛外図屏風」をローマ教皇・グレゴリウス十三世へ献上せよという織田信長のミッションを果たした使節はその後、イタリア国内を巡り、帰国の途につく。原田マハさんはその様子を詳しくは描かない。ただし、ミラノにあるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会へ使節団の一員・原マルティノと共に出かけた宗達が食堂でレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を観たことと、そこでカラヴァッジョ(*1)と出会ったということを詳しく描いている。

京都国立博物館のキュレーター・望月 彩が俵屋宗達の「風神雷神図屏風」に関する講演をするところから始まるこの物語。講演終了後、マカオ博物館の学芸員・レイモンドという男が彩に面会を求めてくる。レイモンドは彩に宗達に関する資料があると伝える。その資料とは「ユピテルとアイオロス(雷神と風神)」が描かれた西洋画の油絵と原マルティノが残したと思われる紙の束だった。そこには俵屋宗達という文字があった! プロローグに示されたこの謎。下巻の最終第四章で謎が解き明かされる。なるほど、こういうことだったのか・・・。

エピローグで原田マハさんは望月 彩の名を借りて、この物語の着想について説いている。以下に適宜抜粋してこのことを示したい。

**歴史上の偶然なのだが、宗達とマルティノは同時代に生きていたことになる。― そう、もっと言えば、あのカラバッジョも。**(310頁)
**使節がミラノを訪れたのは一五八五年、九日間の滞在だった。とすれば、原マルティノとカラヴァッバッジョは「九日間」だけ同じ街にいたのだ。**(311頁)
**宗達が織田信長の前で作画を披露した事実はどこにもない。ましてや、信長の意向を受けて、使節とともにローマへ旅した ― などということは、研究者が聞けば一笑に付される「夢物語」である。
けれど ―。
それでいいではないか。**(311頁) 原田さんに拍手!


*1 ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ 小説では宗達がレオナルド・ダ・ヴィンチに倣って出身地のカラヴァッジョを付けようと提案したことになっている。


「風神雷神」原田マハ

2024-02-09 | A 読書日記

『モダン』
『異邦人』
『楽園のカンヴァス』
『美しき愚かものたちのタブロー』
『黒幕のゲルニカ』
『本日はお日柄もよく』
『たゆたえども沈まず』
『カフーを待ちわびて』
『デトロイト美術館の奇跡』
『リーチ先生』
『リボルバー』
『フーテンのマハ』
『ジヴェルニーの食卓』
『常設展示室』
『アノニム』

480

 原田マハさんの作品を上掲リストの通り読んできた。そして・・・、一番読みたいと思っていた『風神雷神 上下』(PHP2019年、図書館本)を読んでいる。既に上巻を読み終え、下巻も半分を過ぎた。

**花の都フィレンツェに完全に心を奪われてしまったのは、いうまでもなく宗達であった。**(下巻92頁)

本作品を未読だという方は、え?宗達って、俵屋宗達のことでしょ。彼がフィレンツェに行ったってこと? え、どういうこと・・・。と思われただろう。

俵屋宗達が天正遣欧使節の四人と共にルネサンス期のイタリアに降り立つ

**「宗達。きさま、パードレたちとともに、『きりしたんの王』のもとへ行ってこい」**(上巻271頁)

そう、『風神雷神』は織田信長の命により、なんと狩野永徳と俵屋宗達が共同して「洛中洛外図屏風」を制作、それをローマ教皇・グレゴリウス十三世のもとへ献上するために宗達が天正遣欧使節の4人の少年たちと一緒に神の国・ヴァチカンまで行くというストーリー。その後どういう展開になるのかはまだ分からない。プロローグの内容からある程度予想できるが。

こう書けばなんとも奇想天外なストーリーだなと思われるだろう。確かに。でも原田マハさんが組み立てたストーリーは全く違和感なく、進んでいく。原田さんの構想力の凄さに改めて驚く。フィクションの醍醐味を十二分に楽しむことができる。

日本から海路3年、ミケランジェロが制作した天井画のあるシスティーナ礼拝堂で「洛中洛外図屏風」の梱包が解かれる・・・。

**かたや「神に愛された人」と呼ばれ、名声をほしいままにし、八十八年の人生をまっとうして、栄誉のうちに神に召された、まごうかたなき天才。
かたや扇屋の家に生まれ、名声など皆無で、誰もまだその存在すら知らぬ少年絵師。
もはやこの世では会うことのないふたり。
しかし ― ふたりの魂の化身である「絵」が、この場でまもなく出会うのだ。**(下巻137,8頁)

「天地創造」と「洛中洛外図屏風」が出会うという奇跡。この場面を描いている時の原田さん、興奮しただろうな。


読了後に追記するつもり。