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■ 川端康成の(などと書く必要もないだろうが)『伊豆の踊子』(新潮文庫)を続けて2回読んだ。40頁に満たない短編だから読むのにそれ程時間はかからない。この小説を初めて読んだのはたぶん高校生の時。奥付に1950年8月20日発行、2021年7月20日第154刷、2022年7月1日新版発行とある。長年読み継がれてきていることが分かる。
カバーの画はきれいな櫛。踊子が挿していたのは桃色だったことが文中に出ている。だが、この絵は踊子の櫛ということだろう。なかなか好いカバ―デザインだ。
20歳の一高生の私と14歳の踊子の淡い恋と括られる短編だが、ポイントは以下のくだりだろう。
伊豆で旅芸人一行と数日一緒に旅をする私。**二十歳の私は自分の性質が孤児根性で歪んでいると厳しい反省を重ね、その息苦しい憂鬱に耐え切れないで伊豆の旅に出て来ているのだった。**(38頁) 踊子が「いい人ね」と言うのが聞こえて、**私は言いようもなく有り難いのだった。**(38頁) **私はさっきの竹の杖を振り廻しながら秋草の頭を切った。**(38頁)心ウキウキな私。
**「あの芸人は今夜どこで泊るんでしょう」
「あんな者、どこで泊るやら分るものでございますか、旦那様。お客があればあり次第、どこにだって泊るんでございますよ。今夜の宿のあてなんぞございますものか」**(12,13頁)
こんなことを聞かされて、私は心が乱れてしまう。料理屋のお座敷に呼ばれた芸人たち。**踊子の今夜が汚れるのであろうかと悩ましかった。**(19頁)となる。
小説の最後、私が東京へ帰る日。宿の外には女たちの姿が見えない。踊子もいない・・・。**昨夜遅く寝て起きられないので失礼させていただきました。**(41頁)と私に伝える一座の栄吉。
ところが乗船場の近くで踊子が待っていた。
永吉が問う。
**「外(ほか)の者も来るのか」
踊子は頭を振った。
「皆まだ寝ているのか」
踊子はうなずいた。**(42頁)
いいなぁ、この場面。読んでいて涙が出た・・・。早朝なのに踊子が見送りに来てくれていた。これが淡い恋でなくて何であろう・・・。
読書はいい。この歳になってもこんな体験ができるのだから。