映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「64 後編」 佐藤浩市

2016-06-12 20:38:42 | 映画(日本 2015年以降主演男性)
映画「64 後編」を映画館で見てきました。


横山秀夫のベストセラーミステリーの映画化である。わずか7日しかなかった昭和64年1月におきた未解決幼児誘拐殺人事件の時効があと1年に迫る中で、同じような誘拐事件が14年たって発生する。当初から刑事として捜査に加わっていた現在広報官になっている佐藤浩市と幼児を誘拐され悲痛に暮れていた永島正敏を中心に事件の推移を語っていく。

捜査当局と警察に入っている記者クラブとの関係、県警本部での地位を守ろうとする幹部と本庁幹部との関係それぞれにおきた葛藤を語りながら、事件を紐解いていく。佐藤浩市、三浦友和、夏川結衣のベテランに綾野剛、瑛太といった若手がうまく交わり合った豪華配役陣がうまくこなすのに加えて、久々登場の緒方直人がいい感じの演技を見せる。


昭和最後の年、昭和64年に起きた少女誘拐殺人事件は刑事部で“ロクヨン”と呼ばれ、被害者が死亡し未解決のままという県警最大の汚点となっている。その事件から14年が過ぎ、時効が近づいていた平成14年、“ロクヨン” の捜査にもあたった敏腕刑事・三上義信(佐藤浩市)は、警務部広報室に広報官として異動する。記者クラブとの確執、キャリア上司との闘い、刑事部と警務部の対立のさなか、ロクヨンをなぞるような新たな誘拐事件が発生する。そして三上の一人娘の行方は……。
(作品情報より)

1.群馬のロケ
横山秀夫上毛新聞の記者をやっていたせいか、舞台が群馬となる。原作では架空の町となっていたが、地理的にもこのエリアを連想して書かれているので当然そのロケが中心である。


是枝監督の「そして父になる」でも群馬が舞台になったが、河川が流れる周りに発展するいかにも典型的な北関東地方都市風情の町は映画にはしやすい。古典的昭和チックな喫茶店もまだまだ残っているのもいい。

2.未解決事件
もともとの未解決事件があって、時効間際に同じような事件が起きるというパターンは割とある気がする。クライムサスペンスが得意な韓国映画にも「悪魔は誰だ」といういい作品がある。もちろん途中からの展開は異なるが、正直真犯人もこのひっかかりは間抜けじゃないかと思ってしまう。


群馬は人口20万前後の都市がいくつもある場所で、こういう狭い社会だったらきっちり調べれば犯人は特定するのが容易のような気もするんだけど、この映画のモデルにあった未解決事件やすぐ隣の両毛地区での「足利事件」など割と凶悪な事件が未解決になってしまうのはいかがなものかと感じる。

3.豪華な配役陣
やはりこの映画の主役は佐藤浩市がベストだろう。安定感が抜群である。三浦友和もヤクザ映画などへの出演をへて、ちょいと悪い奴の演技がうまくなってきた。永島正敏が犯人を見つけるために執念をしめした行動が凄いが、その時に見せる表情が狂気に迫る。好演である。

今回久々に見たのが緒方直人だ。


彼の近年の出演作を見ると、ほとんど見ていない。平成の初めの頃の大人気ぶりを思うと、何でこんなに影をひそめてしまったのかと思う。緒方直人の顔を見てすぐわかったが、しばらく出くわしていないので違う人と勘違いしたのかと思ってしまう。エンディングクレジットでは綾野剛よりも下になっている。オヤジのような凶暴なイメージはない。でも一見まじめ風で何をするかわからないなんて役は適しているかもしれない。今回の大活躍で少しは株をあげたのではないだろうか?

映画としてはまあまあといった感じかな
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映画「海よりもまだ深く」 阿部寛&樹木希林

2016-06-12 06:46:27 | 映画(日本 2015年以降主演男性)
映画「海よりもまだ深く」を映画館で見てきました。


阿部寛主演、是枝裕和監督の新作が気になっていたが、ようやく見れた。元妻に未練たらたらのできの悪い作家くずれの物語で、大きな衝撃的な出来事があるわけではない。ギャンブル好きで夫婦関係をたたざるを得なかった阿部のダメ男ぶりが絶妙で、その母親である樹木希林がかなりアドリブが入っているんじゃないかと思わせるセリフを語っていく。いずれもうまい。さりげないセリフに味わいがある。

15年前に文学賞を一度獲った売れない作家の長男・良多(阿部寛)は、今は探偵事務所に勤めている。団地で気楽な独り暮らしをしている母・淑子(樹木希林)の家に行き、収納をほじくり出し金目の物を探して質屋に持ち込んで金策をしのいでいる。元嫁・響子(真木よう子)はギャンブル好きでふらふらしている良多に愛想を尽かして離婚した。良多は11歳の息子・真悟(吉澤太陽)の養育費も満足に払えないくせに元妻に未練たらたらだ。それでも響子を張り込みし、彼女に新しい恋人ができたことを知ってショックを受ける。


ある日曜日、良多と真悟が定期的に会うことになっている日だった。相変わらず、養育費が支払えない良多だったが、子供のために野球のスパイクをかったあと、むりやり母・淑子の家に連れて行った。響子が迎えに来たが、台風が強くなり、暴風雨で帰れない状態になった。団地の中で4人は一つ屋根の下で一晩過ごすことになる。


「歩いても歩いても」は同じ阿部寛と樹木希林のコンビで、無職になった主人公阿部がある夏に帰郷したときの日常を描いた非常に味わいのある映画であった。流れるムードはその映画と似ている。とてつもない事件が起きるわけではない。離婚した妻が偶然夫の実家に泊ってしまうということは、そうはある話ではないけど完全に日常を逸脱しているわけでない。

そんな状況の中での阿部寛と樹木希林の動きを楽しむ映画なんだろう。是枝監督が28歳まで過ごしたという清瀬の団地での映像がほとんどで、狭い団地の部屋で大柄な阿部寛が窮屈そうに演じているのがいい。

1.阿部寛
今回の阿部寛はダメ男である。ある文学賞を受賞したけど、その後泣かず飛ばずで気がついたら探偵業をしている。おそらくはギャンブル好きで、働いた給与も全然家庭に入れなかったのであろう。愛想を尽かさせて妻と息子は家を出ていってしまう。でもその妻に未練たらたらだ。
探偵業といっても、依頼人から妻の素行調査を引き受けて、浮気の現場をおさえた後にその写真を妻に持参し金をゆするなんて悪いやつだ。高校生に対しても同じようなゆすりをしている。真面目な人ならその不良ぶりに見て気分悪くする人もいるだろう。でも何か単なる悪とちがうムードがあるんだよなあ。


ゆすったお金を競輪場にいって、もっと増やしてやるとばかりに賭けてしまい外れて競輪選手に罵声を浴びせたり、妻が今付き合っている男を探偵業の業で見つけ出し、こっそり追っていくシーンなどあーあと思ってしまう。台風できっと帰れなくなるだろうと予測しながら息子を実家に連れていくなんて気持ちはわからなくもない。でも何やっても夫婦関係の修復は駄目なものは駄目である。どうやっても逆転しない。最後までそんなシーンが続き、ダメ男に徹しているのもいい感じだ。


2.樹木希林
夫に死に別れて、独立をした息子と娘が残った。めったに帰ってこない息子が金がないので、金目のものがないかと実家の押し入れの中を物色している。それを見て母はあんた金がないんでしょうというが、そうでないと言い張る阿部寛だ。調子に乗って母親に一万円札を小遣いとしてあげてしまう。でもそのお金は阿部寛が姉の小林聡美からせびったものだ。嬉しくなった母が姉に電話をしてばれてしまう。姉に呆れられる阿部寛。そんな逸話が続いていく。


元夫の実家に連れられて行った息子を迎えに行き、本当はすぐさま帰ろうとしたのに風雨がキツイ。絶対イヤなのに元姑は盛んに泊まっていけとうるさい。そもそも離婚していないとしても、こういう時、女が夫の実家に泊まりたがらないのは自分も経験あるのでよくわかる。でもタクシーもすぐさま来そうもないので、元嫁はついに泊まることを決断する。そこで樹木希林が大喜びだ。その後のパフォーマンスが妙に現実味がある。 同じような場面を経験したことがあるので、亡くなった母を思い出し樹木希林の動きが健気な気がした。

もう一度戻ってほしい気持ちが強い姑が戻れないかと元妻に懇願するシーンもどこかつれない。元嫁に帰ってほしい夫の母の気持ちがにじみ出ている。元妻には何の悪いところがないけれど、元夫だけでなく姑にまで言われるのはつらいなあ。

ここでも樹木希林の演技は神がかりの粋に達しているような気がする。コメディタッチが強い渥美清の演技がアドリブのセリフを織り交ぜて、境地に達したのと同じ類いだ。

そしてテレサテンの歌がしみじみとラジオ放送の中流れる。なんと情念のこもった歌なんだろう。香港のマギーチャン主演「ラブソング」の時に感じた同じような衝動を感じながら静かなラストを体感した。

(参考作品)
歩いても歩いても
是枝監督&阿部寛&樹木希林の名コンビ
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