映画とライフデザイン

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映画「アムステルダム」クリスチャン・ベール&デヴィッド・O・ラッセル

2022-11-06 08:27:52 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「アムステルダム」を映画館で観てきました。


映画「アムステルダム」はクリスチャンベール主演の1930年代のアメリカを舞台にした作品だ。クリスチャンベールがアカデミー賞助演男優賞を受賞したファイターデヴィッド・O・ラッセルが監督をつとめる。ここで驚くのが出演者の豪華なことだ。ブラック・クランズマンジョン・デヴィッド・ワシントン「スキャンダル」マーゴット・ロビーだけでなく主演級をゴロゴロ集める。いったいギャラはどれだけになるだろうと思ってしまう。

1933年のニューヨーク、第一次大戦の復員兵の戦友会でスピーチすることになっていた元将軍が突然亡くなる。将軍の部隊にいた医師バート(クリスチャンベール)と弁護士のハロルド(ジョン・デヴィッド・ワシントン)の元に将軍の娘リズから解剖の依頼がくる。そこで胃の中に異常を発見する。その後でリズが群衆の中で誰かに道路へ押されて交通事故に遭い亡くなるが、いつの間にかリズのそばにいた2人がやったことにされてしまう。陰謀を感じた2人は身を隠す。

やがて、自分たちの身を守るために富豪のトム(ラミマレック)の家に向かうと、1918年フランスの戦場でバートとハロルドと行動を共にして、その後アムステルダムで過ごした元看護師のヴァレリー(マーゴット・ロビー)がいた。ヴァレリーがトムと同居する妹だということがわかる。改めて3人が一緒に動くことになる。


デヴィッド・O・ラッセル監督のアメリカンハッスル世界にひとつのプレイブックがもつコメディ系のタッチが映画を通して流れている。クリスチャン・ベールが演じる義眼の医師も「できる」男ではない。ドタバタしながら行動する。それなりにおもしろいし、最後まで飽きない。でも、両手をあげていいという訳ではない

ハリウッド映画らしくポストプロダクションや美術のレベルが高い。しかも、撮影は三回もアカデミー賞を受賞したエマニュエルルベツキだ。ロバート・デニーロや「ボヘミアンラプソディ」のラミマレックも含めてアカデミー賞受賞者をここまで集めた映画はないだろう。

自分が感じるに、コミカルにストーリーは進んでもマジメな意味で3つの題材がある。1つは人種差別、2つ目が復員兵、もう一つがナチス躍進に伴う陰謀である。

⒈黒人と白人の恋と人種差別
主役3人がもともと仲がよかったわけではない。第一次大戦末期にフランス戦線で知り合った時は、バートは軍医でなく戦闘で目をつぶされる単なる白人兵士、ハロルドは黒人の待遇が悪いと不平不満たらたらの黒人兵士、ヴァレリーはフランス語に堪能で、銃撃を受けた兵士の身体から銃弾を取り除く優秀な看護師だ。みんなはヴァレリーをフランス人だと思っていた。

3人を結びつけたのが、今回解剖をすることになった将軍だ。黒人にも融和的だった。ここで戦闘の最前線で真っ先に危険エリアに送り出される差別をクローズアップする。昔の映画であれば、それだけで終わってしまったであろう。ここでは、黒人男性のハロルドと白人女性のヴァレリーが恋に落ちる設定だ。医師のバートも解剖の名手である黒人看護師と恋心を持つようになる。

実際に白人女性と黒人男性の恋って1930年代にあったであろうか?こんなところを南部出身の白人に見つかったら大変だなんてセリフもある。最近の多様性重視でこんな恋の設定がアメリカ映画に目立つ一環かもしれない。


⒉第一次世界大戦の復員兵
戦争で活躍して国の英雄になり勲章をもらうのが最高の名誉だとするセリフがある。激戦と今でも言われる第一次世界大戦からの復員兵に対しては、当時、大きな敬意を表していたのであろう。映画から感じられる。ロバート・デニーロが演じるのは大戦で活躍した将軍である。その将軍が発する言葉の影響力は非常に強い。彼をどう取り込むのかというのが陰謀を企むグループと保守派の駆け引きにつながる。この映画の大きなテーマだ。

第二次世界大戦という大きな戦争があり、アメリカに関してはその後も朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争と戦争が続く。映画でもその退役兵の苦しみを描いた作品が多い。随分と観た。名作「西部戦線異状なし」でもわかるように第一次世界大戦は過酷な戦争だったと言われるが、最近は「1917」以外は取り上げられていないので新鮮な題材である。

⒊ナチス躍進に伴う陰謀
復員兵の戦友会でスピーチすることが決まっていた将軍が何かの陰謀で殺されて、その死亡原因を追う娘が殺される。しかも、娘に依頼された主人公2人がはめられる。そんな構造は早い段階でわかった。でも、この陰謀って一体何なんだろう?徐々に外堀を埋めていき、最終的にはナチスドイツも絡めた陰謀だということがわかる。映画では優生学に伴うナチス戦略に近い状況も織り込まれる。そして、意外な人物が大きく関わっていることがわかるが、ここでは言わない。

ただ、この設定に少し疑問もある。映画の設定は1933年、ヒトラーが政権を握ったのが1933年1月である。ケインズ政策を戦前最も効果的に実行したのはナチスドイツであり、高速道路アウトバーン建設をはじめとした公共事業で600万人いた失業者をほぼゼロにしてしまう。それによりヒトラーは民衆から支持を高める。でも、政権を握ってすぐ着手したとはいえ、米国経済界に大きな影響力を持ったとは思えない。この映画の一部の場面設定が強引な設定にも見えてくる。


⒋1933年のニューヨーク経済
1929年から大恐慌が始まったことは普通に学校で歴史を勉強した人なら誰もが知っているだろう。ただ、その後の株価の推移を知っている人は少ない。今も続く米国ダウ平均は1929年に381をつけた後、何と1932年に41まで下落しているのだ。本来金融緩和をすべきところを、当時金本位制だったことも影響してか、むしろ連銀が引き締めていたことで恐慌が終焉しなかった。

ミルトンフリードマンの研究が有名だが、恐慌時の逆方向にカジをとったリーマンショック後の金融緩和政策により、今年のノーベル経済学賞をバーンナンキ元FRB議長が受賞した。当然だろう。アベノミクスにも大きな影響を与えた。

1933年の米国株式市場はルーズベルト大統領の登場で若干回復の兆しを見せる。50前後だったダウ平均も100を超えるくらい大きく戻している。そんな時期のニューヨークの姿を映し出す。悲痛な姿はこの映像にはない。財閥の主というべき経営者たちが映し出されている。でも、1933年では経済は回復しきっていない。そんな状態だ。ニューディール政策ではアメリカ経済はさほど良くなってはいない。結局アメリカ経済を復活させたのは戦争だった。

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