@ヨットは何故風上へのぼれるか?
前回の記事で掲載した帆走の写真をご覧下さい。前帆(ジブセイルと言いますが)が右前方に膨らんで前へ進んでいる写真です。前方の左45度の方向から風が吹き込んできます。すると前帆の外側を回る風の速度は内側の風の速度より早くなります。風の通路の長さが外側では内側より長いから仕方なく外側が早く流れます。
同じ空気が早く流れるとその部分の窒素分子と酸素分子が、遅く流れている部分より希薄になります。従って空気の圧力が小さくなります。前帆の外側の圧力が小さくなり、内側の圧力が大きくなります。すると前帆は外側、すなわち前方へ吸い付けられる訳です。これが右前方へ船を吸い付ける力となります。
急に話が変わりますが、この前帆を左へ横に倒して水平にした形は飛行機の主翼とほぼ同じになります。主翼の上側の空気の流れが速いので主翼が吸い上げられるのです。以前ご紹介した所沢航空博物館には前後は固定してあり上下は自由に動く飛行機の模型があります。前方からの扇風機の風を次第に強くしてゆくと模型の飛行機が上へ飛び上がります。主翼の揚力が大きくなるためです。
これと全く同じ原理でヨットは前方45度の方向へ吸いつけられて前進します。
写真には主帆(メインセイル)の形は映って居ませんが、前帆と同じ形に膨らんでいます。そのような形になるように前帆も主帆も真ん中が少し弛んだ設計になっています。一番重要なポイントは三角形の前の縦の縁(へり)と下の縁をシッカリ固定することです。三角形の縦の後ろの縁(へり)は自由に風に任せてあります。これで飛行機の主翼の上側の曲面に近い形になるのです。この技術を発明したのはエジプトのナイル河を帆走で上下していた数千年前のエジプト人でした。船底に重いキール板を縦につけ横滑りを防ぎ、風上へ上る性能を向上させたのがヨーロッパ人です。とても残念ながらアジア人はこの技術を発展出来ませんでした。
余談ながら、速度の早い流体の圧力が遅い部分より小さいという事実を証明したのが近代ヨーロッパのベルヌイールという科学者です。それで、この定理を「ベルヌイールの定理」といいます。流体力学の分野の基礎をなしている定理の一つで、昔の学校教育で教わったものです。(終わり)