もう60年余りも昔の太平洋戦争中。筆者は終戦間際に海洋少年団に入団した。2回訓練があったがすぐに終戦。習ったことは、ロープの舫(もや)い結びの仕方やその他の結び方だけ。
終戦を予感していたのか意気消沈した老退役海軍士官が熱心に教えてくれた。「船の基本はロープの結び方です」。何度もクドクドとつぶやく。その後船とは縁が切れ、結び方はすっかり忘れた。しかし「舫い結び」という言葉だけが印象深く心に残った。
舫い結びは結び易く、解け難く、しかし、手である方向に押すと実に簡単に解ける。この結び方一つだけで20年間ヨットを楽しんでいる。
日本丸でも一番目が行くのはロープ類。もっとも帆船ではロープという言葉は使わない。使用目的別にハリヤードとかステイとか固有の名前がついている。でも簡単のため、すべてロープと呼ぶことにする。ロープ類は帆船の命。日本丸にはどの様なロープがあり、修理や保管はどうしているのだろうか?
上の大きな写真を見ると4本のマストに横になった帆桁(ヤード)が5、6本ずつついている。
ゴチャゴチャした写真なので大型帆船の構造は一瞬にして分かるというわけにはいかない。しかし下列左端のクルーザーの構造図をご覧頂きたい。よく考えるとロープ類は2種類しかない。
1)マストをしっかり立てるため船体へ固定したロープ類(クルーザーではステイとシュラウド)、
2)2枚の帆を上げたり、向きを変えるためのロープ類(ハリヤードやシート)。
大型帆船でも同じこと。ただマストが4本で帆が29枚と複雑にはなる。しかし原理は小型ヨットと全く同じ。下列の2枚目、3枚目の写真には無数のロープ類が写っている。
1)、太くて舷側に連結してあるのが、クルーザーのシュラウドに相当するロープ類で、マストが倒れないように固定してある。
2)、大きないくつもの輪になって束ねてあるのが、クルーザーのハリヤードやシートに相当するロープ類で、帆の上げ下ろしをする。この二番目の類には横桁(ヤード)の上下や向きの調整をするロープも含むことにする。
日本丸では29枚の帆と横桁(ヤード)を動かすためのロープが245本ついているそうだ。
どのロープを引くとどうなるか?一切心配無用。甲板上の装置は全て人力で動かす。分からない時は手で引っ張ってみて、何処が動くか見れば理解でる。
245本のロープの名前(英語)を暗記しようなどと思わないで気楽に接してみることが重要と思う。横浜の市民は、甲板ボランティアーになるとこのロープ操作と修理や保守を担当する。最後の2枚の写真が示す船倉に、自由に入り保管したり、屑ロープを編みなおしてもう一度使えるようにしている。編んでいる途中で帰りたくなったら名前をつけて次回に続きを編む。帆船上ではロープ類は絶対に捨てない。使えなくなるまで再利用する。
上記は第一回目の記事でご紹介した大西船長から聞いたことである。
一般の人が自由に船倉や船底に出入りし修理作業をする。船への愛着がますます強くなるわけである。甲板ボランティアの仕事は他にも沢山あるが、いずれ書く予定。日本丸では種々の修理方法を、以前この船の船長や航海士をしていた人々が直接、根気良く教えている。教わりながら帆船特有の文化を理解しているのではないかと思う。(続く)