本当の友人とはこういう人と思っている。本名、鬼澤慎さんのことだ。彼のことをブログへ書こうと思いつつ1年もたってしまった。まだ若いのに、あまりにも奥深い人なので描き方が思いつかない。それに書いてしまうとこの友情が薄れるような気もして躊躇していた。
彼は大型コンピューターを大会社や大学の計算機センターへ売り歩く営業マンだ。私が昔大学で働いていたので、彼が大学へ営業に行く手伝いをした。彼の個性が好きになってので、手伝いたくなっただけである。頼まれた訳では無い。一緒に、雪国の長岡、富山、金沢、福井にある国立大学の計算機センターをめぐり歩く冬の旅だった。計算機センターの事務官と交渉してセンター長の教授と会えるようにするのが私の役目。その後はセンター長へ鬼澤さんが説明する。私は黙って見ている。売り歩いているのはアメリカの大型計算機システムだが、その説明はしない。センター長の話を聞く。どんな計算をしたいのか?大型計算機の使用頻度は?どういう故障で困ってるか?とにかく話を聞くことに徹している。ここまで来ると営業成功の可能性が見えてくる。
鬼澤さんとセンター長の初対面の会話を横から観察する。すると始めの数分で、何処のセンター長も鬼澤さんが好きになってしまう。何故かは分からない。それで、私は彼を天才的営業マンだと今でも思っている。最後になると、センター長は鬼澤さんの経歴を聞き始める。すこしばかり友人になりたがっている様子だ。彼は明るく言う。千葉工業大学を卒業しました。沖電気の工場で通信機器の製造の仕事をしていました。数年後、あるきっかけで大型計算機の営業をしないかと人に誘われてこの道に入りました。そんな話を淡々とする。よどみが無い。
センター長は「大学ではIBMや富士通のマシンを使っているのが多いよ。君の会社のような小さな会社からIBM以外のアメリカのコンピューターを買うと保守管理が大変で心配ですね」という。正しい意見である。私も賛成だ。しかし鬼澤さんは販売の可能性のあるところへ何回か通って、結局売ってしまう。彼一人の2005年頃の年間の販売実績は5億円くらいであったと記憶している。
雪国の冬は夜が長い。旅のつれずれに話を聞く。営業の成功の為にはまず相手を好きになることという。相手もこちらへ好意を持ってくれれば少し話し始める。その瞬間が一番重要で、もっと内実を話したくなるような気分にさせるのだと言う。このへんは幾ら聞いてもどうすれば良いのか理解が出来ない。天賦の才としか言えようがない。
国立大学が大型計算機を買うときは官報で広報して説明会をして入札で決める。当然、IBMや富士通が有利になる。しかし鬼澤さんは幾つかの大学、大型国立研究所、大会社などの計算機センターへ売る実績をあげる。勿論、失敗することも多い。三島の遺伝学研究所や三鷹の国立天文台への販売は不成功であった。
鬼澤さんと雪国の冬の旅をしたおかげで、世の中の営業マンへ親しみを感ずるようになった。営業マンには天賦の才と努力が必要だ。どんな職業でも同じ。時々自宅へ営業の電話がくる。その度に鬼澤さんのことを思い出して、つい温かい言葉を返していることが多い。冷たく電話を切るより後味が良い。友人とは別れた後でもこちらの人生を楽しくさせる人なのかも知れない。
下の写真は最近、あるパーティで撮った鬼澤慎さんの写真である。実名と顔写真をブログへ出しても良いか何度も聞いたが、キッパリと清々しく、そうして下さいと言うので掲載する。
(終わり)