![]() | 決定版 男たちの大和〈上〉角川春樹事務所このアイテムの詳細を見る |
【一口紹介】
昭和十六年十月、極秘のうちに誕生した、不沈戦艦「大和」の予行運転が初めて行われた。同十二月、太平洋戦争突入。
そして戦況が悪化した昭和二十年四月六日、「大和」は三千三百三十三名の男たちを乗せ、沖縄への特攻に出撃した。
日本国と運命を供にした「大和」の過酷な戦いと男たちの人生を、丹念に、生々しい迫力をもって描く、鎮魂の書。
新田次郎文学賞受賞作。
【読んだ理由】
言うまでもなく、映画化と共に今話題の書。
【印象に残った一行】
『細田は上陸のとき、呉の家に帰り一泊した。妻も子供もいた。今度出撃すれば特攻だろうと感じていたが、妻にも誰にも言わなかった。言いたくなかった。彼は昭和十六年四月、呉海軍工廠で「大和」が艤装中から艤装員として乗っていた。
副長の訓示のあと、乗組員は皇居の方向に向かって遥拝した。「君が代斉唱」がすむと、副長の音頭で「皇国万歳」を三唱した。
乗組員たちはすべての戦闘服に身をかためた。この日の朝は、誰もが新しい肌着を着けた。
副長の解散の号令がかかったが、しばらくは誰もその場を去ろうとせず夕闇せまる甲板に立ちつくしていた。四国の海岸の松ノ木が、夕陽のなかにシルエットをつくっていた。
家郷の方向に姿勢を正して帽子を脱ぎ、頭を下げて動かぬ者がいる。両手を高く挙げ、ちぎれるほど振っている者もいた。見えない父母弟妹に、妻や子に、恋人に最後の別れをした。みんな、泣いていた。
測定儀の石田直義班長も、「君が代」を歌いはじめたとき、涙が出た。最後に家に帰った時のことがまぶたに浮かんだ。長男が誕生して一週間目だった。家を出て歩きだしたが、再び家の周りをまわった。息子をもう一ぺん、この腕でしっかり抱きしめたかった。妻や子のことが思い出され涙がにじんだ。』
【コメント】
運命の昭和20年4月6日、愛する人を、家族を、友を、祖国を守りたい、その一心で「水上特攻」に向かい、若い命を散らしていった男たちの心情を汲み取るべく、著者辺見じゅん氏の、生存者と遺族への膨大な取材によって完成された力作は、読む者の胸をうつ。
