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【一口紹介】
◆出版社 / 著者からの内容紹介◆
1969年春、横浜の高校で悲惨な事件が起きた。
入学して間もない男子生徒が、同級生に首を切り落とされ、殺害されたのだ。
「28年前の酒鬼薔薇事件」である。
10年に及ぶ取材の結果、著者は驚くべき事実を発掘する。
殺された少年の母は、事件から1年半をほとんど布団の中で過ごし、事件を含めたすべての記憶を失っていた。
そして犯人はその後、大きな事務所を経営する弁護士になっていたのである。
これまでの少年犯罪ルポに一線を画する、新大宅賞作家の衝撃ノンフィクション。
◆内容(「BOOK」データベースより)◆
追跡!28年前の「酒鬼薔薇」事件。高1の息子を無残に殺された母は地獄を生き、犯人の同級生は弁護士として社会復帰していた。
新大宅賞作家、執念のルポルタージュ。
【読んだ理由】
2006年、『ナツコ 沖縄密貿易の女王』(文藝春秋)で、講談社ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞をダブル受賞した著者の作品。
【印象に残った一行】
「あいつをめちゃめちゃにしてやりたい」
みゆきさんは、兄を殺したAが弁護士になっていると聞かされたとき、ほとばしる憤怒を従妹の明子さんに涙で訴えた。みゆきさんには珍しく、半狂乱のようだったという。驚いた明子さんは電話口で必死になだめたが、みゆきさんの興奮はおさまらなかった。
一人の命を奪った少年が、国家から無償の教育を受け、少年院を退院したあとも最高学府にはいって人もうらやむ弁護士になった。一方のわが子を奪われた母親は、今や年金でかろうじてその日暮らしをしている。にもかかわらず、弁護士になったAは慰謝料も払わず、平然としているのだ。みゆきさんでなくても釈然としない。
「一人の命を奪いながら、国家から無償の教育を受け、知りたいことをいくらでも知ることができ、あったこともなかったことにできて、最高じゃないですか」
みゆきさんの精一杯の皮肉を、涙とともに吐き出した。
三十余年が経過しても、今も被害者はあの事件を引きずっていた。あそらく生涯にわたって続くだろう。歳月は遺族たちを癒さない。そのことを私たちは肝に銘じておくべきだと思う。
【コメント】
命を奪われ、残された被害者家族のその後の人生と終わったこととして、弁護士となった加害者の対照的な人生。
「たとえ少年であっても、他人の命を奪った罪は、奪われた遺族の悲しみと表裏一体であることを忘れてはいないだろうか」の著者の呼びかけは重く私の心に残った。