2012年10月19日 朝刊
建設の是非が問われている八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)をめぐり、国土交通省関東地方整備局が、一九四七年九月のカスリーン台風の洪水により同県高崎市など利根川上流域で発生した水害の氾濫地域を過大に示した図を作成していたことが分かった。
この氾濫図は昨年六月、国交省が日本学術会議分科会の資料として作成し、ダム本体着工の条件である「利根川・江戸川河川整備計画」の策定に向けた有識者会議にも示された。一部の委員から「捏造(ねつぞう)した氾濫図」として撤回を求める意見が出ている。ダム建設の根拠となる治水の必要性の議論に影響を与えそうだ。
氾濫図で示された上流域は、烏川や鏑川(かぶらがわ)が流れる高崎市、鮎川の藤岡市、利根川右岸の玉村町など。
実地調査した有識者委員の大熊孝新潟大名誉教授によると、氾濫図にある氾濫地域(青色)のうち、
烏川左岸の高崎市役所や高崎駅がある市街地部分は川から十メートルを超える高台で、鏑川左岸の上信電鉄の西側は標高約二百メートルの山間部だった。
さらに鮎川や烏川と鏑川が合流する辺りの右岸の一部を除き周辺のいずれも浸水していなかった。
玉村町のほとんどが氾濫したことになっているが、半分以下しか浸水していなかったという。
整備局は有識者会議で氾濫図について「群馬県発行の『水害被害図』と『カスリン颱風(たいふう)の研究』に記録された浸水の深さを基に、
見取り図的なひずみを現在の地図の正確な位置で補正して作った」と説明。現地での地形確認や聞き取り調査は行っていなかった。
建設省(現国交省)は一九七〇年、カスリーン台風の利根川上流域における洪水被害の実態をまとめ、氾濫図を作成した。今回新たに作成された氾濫図では氾濫地域が大幅に拡大している。
下流の治水基準点・八斗島(やったじま)でカスリーン台風の洪水時、整備局の推計で最大毎秒約一万七千立方メートルの水が流れ
、
新たな流出計算モデルでは同約二万一千立方メートルの水が出た(最大流量)としている。差の同約四千立方メートルが上流域で氾濫などしていたとする。
大熊委員は「国は最大流量をかさ上げするために、つじつま合わせで、上流域で大規模な氾濫が起きたように捏造している。氾濫水量は八分の一程度ではないか」と批判する。
整備局河川計画課は「被害地域を唯一、示していた水害被害図の資料に基づき、機械的に作った。氾濫図は最大流量の算出で使っていない」としている。
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