(12月27日、イスラエルによるガザ警察施設爆撃の犠牲者 “flickr”より By Amir Farshad Ebrahimi
http://www.flickr.com/photos/farshadebrahimi/3158999985/)
パレスチナ・ガザ地区へのイスラエル軍の侵攻が続いています。
【フランスの仲介】
フランスのサルコジ大統領が5日からイスラエルやパレスチナ自治区などを訪れ、停戦に向けた仲介を本格化させていますが、イスラエル側は要求を拒否し、イスラム原理主義組織ハマスへの攻撃を継続する考えを示しています。
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AFP通信によると、オルメルト首相はサルコジ大統領の停戦要求に対し、「作戦の成果はハマスのロケット弾攻撃を停止させるだけでなく、攻撃できなくさせることでなければならない。ハマスの攻撃を許容するような妥協案は受け入れられない」と述べた。
イスラエルのリブニ外相も5日、エルサレムで開かれた欧州連合(EU)外相代表団との合同記者会見で「イスラエルは攻撃されれば報復する。これはテロとの戦いであり、テロリストとは合意を結ばない」と述べ、即時停戦を拒否した。
一方、アッバス議長はヨルダン川西岸ラマラでのサルコジ大統領との会談にあたり、「ガザ住民に対するイスラエルの侵略の即時・無条件停止」を求めた。サルコジ大統領は会談後、「できるだけ早期の停戦を望む。暴力を止めなければならない」と述べた。【1月6日 毎日】
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フランスはイスラエル・パレスチナ双方へのパイプを従来から持っており、政権移行期で動きが鈍いアメリカを出し抜いて中東での存在感を示したい意向とも報じられています。
なお、“フランスは伝統的にアラブ寄りの姿勢で知られ、イスラエルから懐疑的な目で見られていた。だが、サルコジ氏は就任前から親イスラエルの立場を隠さず、イスラエル側から好意的に受け止められていることも、調停役としての期待につながっている。”【1月4日 朝日】
サルコジ大統領は新聞社のインタビューで、イスラエルのパレスチナ自治区ガザへの地上侵攻を非難するとともに、ハマスがイスラエルに対して続けているロケット弾攻撃を受け入れることのできない挑発行為として非難して、停戦の継続を拒み、ロケット弾攻撃を再開したハマスもガザ地区のパレスチナの人々の苦しみへの大きな責任を負っていると述べています。
【アメリカの思惑】
一方のアメリカはイスラエル寄りの姿勢を明確に出しており、マコーマック報道官は3日声明を発表し、イスラエル軍地上部隊によるパレスチナ自治区ガザへの侵攻を米政府として容認する、また、ガザ情勢悪化の原因はハマスにあるとする姿勢を明らかにしています。
アメリカは、今回の戦闘でハマスを一層孤立化させ、イスラエルとパレスチナの2国家共存路線を軸とする中東和平の進展につなげたいとの期待が強いとされますが、“米国のイスラエル擁護姿勢は、アラブ世界などでイスラム過激派が反米世論をあおる口実に利用するのは確実。”【1月4日 読売】とも見られるなかで、不透明な先行きです。
マコーマック報道官は5日の記者会見で、停戦に向け、“イスラム原理主義組織ハマスによるロケット弾攻撃の停止”、“封鎖中のガザ地区検問所の再開”、“ガザ地区への武器密輸の取り締まり”の3条件を示しました。
ブッシュ政権が主張してきた「持続可能な停戦」の具体的内容を明らかにしたもので、ライス長官はこの3条件をもとに、関係国と調整を続けているようです。【1月6日 毎日】
イスラエルはこの機に、ハマスの軍事基盤を一掃したい思惑で、“イスラエル側には、国際社会は「ハマスを弱体化させるためにイスラエルに時間的猶予を与えようとしている」(イスラエル紙ハアレツ電子版)との読みもあり、時間の許す限り軍事的な打撃を与えることを狙っているとの指摘もある。”【1月5日 産経】との報道もあります。
【原因はハマス】
ハマスは“イスラエルの犯罪”を声高に主張していますが、ブッシュ大統領・アメリカが言うように、また、英仏も認めるように、今回の衝突の原因はハマスの停戦拒否・ロケット弾攻撃にあります。
ハマスは、イスラエルのガザ封鎖が解除されないのでと言うのでしょうが、現状が認められないから攻撃するというのであれば、当然に相手も反撃しますので、至るところは今回のような戦闘しかありません。
それも、ガザ住民を巻き込んだ戦闘です。
和平の方向で一歩でも進もうというのであれば、現状をスタート台にするしかありません。
以前も触れたように、そもそもハマスのようなイスラエルとの共存を否定して武力闘争を掲げる組織は、闘いにあってこそ存在意義があり、和平を目指すインセンティブに決定的に欠けていると思われます。
イスラエルとの穏和な関係など最初から考えていません。
こうした組織がガザを実効支配している限り、パレスチナの和平は1歩も進まないことが容易に想像できます。
和平を進めるためには、ハマスに表舞台から降りてもらう必要があります。
そこで、今回のイスラエルやアメリカのハマスをなんとかしたいという思いは心情的には理解できます。
【武力は憎しみと対立を増長させるだけ】
ただ、懸念するのは、今回のような衝突は、たとえ原因がどちらにあるにしても、結果としてパレスチナの人々のイスラエルに対する憎しみを燃え上がらせ、これまでハマスの住民を人質にとるようなやり様に批判的だった人々をも、ハマス支持の方向に追いやってしまう結果になるのでは・・・ということです。
ガザ住民を取材した報道からは、すでにそのような傾向が見受けられます。
こうした流れは、ガザでのハマス支配を強めるだけでなく、ヨルダン川西岸を含めたパレスチナ全体のハマス化を進めることにもなります。
そうなると、パレスチナ和平など永遠に訪れません。
もし、イスラエルが武力でパレスチナを押さえこもうとするのであれば、パレスチナ住民全員を殺害するところまで行かないと抵抗はおさまらないでしょう。
たとえ全員を殺害しても、かつて自分達が経験した民族迫害の加害者になったおののきと、いつどこから復讐の矛先を向けられるかもしれないという不安は、イスラエル自体を呪縛し続けるでしょう。
原因はハマスにあっても、今回のイスラエルの反応は基本的に方向が違うように思われます。
イスラエルの立場にたったとき、向かうべき方向は、圧倒的に優位な立場にあるイスラレルが、ガザ封鎖解除・入植地からの撤退など一方的に譲歩することで、パレスチナの人々とイスラエルの経済的・社会的融和を進めることではないでしょうか。
その融和を阻止しようとするハマスなど武装勢力のロケット弾攻撃やテロなどはしばらく無視することです。
やがて、そうした融和が進めば、パレスチナの人々の中からロケット弾攻撃やテロに対し「余計なことをするな」という声が生まれてくることでしょう。
武力は憎しみの連鎖を生むだけで、その先には和平も共存もありません。