孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  最終局面に入った「解放のトラ」との闘いの後にあるもの

2009-01-21 21:29:00 | 国際情勢

(シンハラ人とタミル人の争いを象徴する事件となったのが1998年、スリランカの古都キャンディの最も由緒ある寺、仏歯寺に対する自爆攻撃 日本で言えば東大寺が爆破されたようなものでしょうか 06年のGWにキャンディを旅行したときは、LTTEのテロが頻発していた時期で、超国宝“仏歯”を収める仏歯寺周辺は厳重な警戒でピリピリしていました。
“flickr”より By lanka nuwan
http://www.flickr.com/photos/lanka_nuwan/3063510392/)

【LTTEの首都制圧】
スリランカでの政府軍と反政府組織「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」の闘いは、LTTEの事実上の首都キリノッチ制圧で、“戦闘”としてはいよいよ最終局面に入っています。

***スリランカ政府、「解放のトラ」軍事拠点制圧を発表****
スリランカのラジャパクサ大統領は2日、テレビ演説を行い、反政府組織「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」の拠点である北部の都市キリノチを同日制圧したと発表した。
大統領は「国民にとって比類なき勝利だ」と述べ、北部のLTTE支配地域一帯の「首都」だったキリノチ制圧の意義を強調。LTTEが武装闘争を直ちに放棄し、25年を超す内戦に終止符を打つよう、呼びかけた。

しかし、大統領演説の直後には同国最大都市コロンボの空軍司令部前で自爆テロが発生、少なくとも兵士2人が死亡した。LTTEがあくまで抵抗を続ける姿勢を誇示したものと見られ、国内各地で厳戒態勢が続いている。(中略)

LTTE指導者プラバカラン議長の動静は不明だが、同議長は昨年11月末の演説で、キリノチ陥落も視野に、兵力をジャングルに分散させたゲリラ戦や、都市部でのテロによる抵抗を激化させる姿勢を示していた。
内戦の背景にある少数派タミル系と、多数派シンハラ系住民の対立はもとより根深く、政府の目指す北部の平定と和平実現には、なお曲折が予想される。【1月2日 読売】
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【進展が遅いような・・・】
これはあくまでも素人の見当違いな感想ですが、政府軍の作戦進行はなんだか妙に遅いような気がします。
意図的に遅らせているのでは・・・と思えるぐらいです。
政府軍は一昨年夏にはLTTEの東部拠点を奪い、戦線は北部に集中。
去年の9月頃から政府軍がキリノッチに迫っているというニュースが報じられていました。

スリランカは小さな島国です。そんなに広い戦線がある訳でもありません。
確かに昔は政府軍の力がLTTEに及ばないという時期もあったようですが、現在はその装備には格段の開きがあります。
いくら小国とは言え、政府軍がそれなりの空軍力を持つのに対し、LTTEは数機の軽飛行機で爆弾を投下するのがやっというのが実情です。
特に、政府軍攻勢の流れが明確になってからは、普通なら、戦局は一気に政府軍へ・・・と思ったのですが、結構時間をかけてやっているように思えます。

スリランカ政府はあまりLTTE制圧を急いでいないのではないか・・・なんて邪推する理由は、内戦状態のほうが何かと他国からの援助が引き出しやすく、そこに利権が発生すること、更に、内戦を終わらせるとシンハラ人とタミル人の融和という、戦闘以上に困難な問題に正面から取り組まないといけないことです。

まあ、軍事に全く素人の的外れな妄想でしょう。
LTTEとの戦闘は、LTTE支配下の最後の拠点ムラティブ周辺に移っています。
LTTEはムラティブの沿岸地帯を40キロにわたって依然支配しており、スリランカ海軍はLTTEの船舶の活動を抑えるため、海上に4重の航行規制措置を講じています。
20日には、政府軍の包囲網を突破しようとしたLTTEの船4隻を破壊したと政府軍が発表しています。
また、軍事筋によると、ムラティブ沖での20日未明の戦闘でLTTE側に16人前後の死者が出たとのことです。
【1月20日 AFP】

“フォンセカ陸軍司令官は「LTTEの終わりに1年もかからないだろう」と北部全域の早期掌握に自信を示した。”【1月3日 朝日】とのことで、まだまだ少なくとも1年ぐらいはLTTEとの戦闘が続くようです。

【今後も続くゲリラ戦】
メディア・関係者の認識が一致しているのは、かりにLTTEとの今のような戦闘が終結しても、LTTE側はゲリラ戦やテロ攻撃を続けるであろうということです。
その点では最大の資金援助国である日本政府も同じ認識です。

****スリランカ情勢 「政治的解決が不可欠」、外務省関係者*****
スリランカ政府軍が2日、反政府勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」支配地域の事実上の「首都」だった同国北部のキリノッチを制圧したことについて、スリランカに対する最大の援助国である日本の外務省関係者は5日、同国の民族間紛争を収束させるには政治的解決が不可欠だと語った。

日本はスリランカが受けている国際援助額の3分の2近くを拠出しており、スリランカ政府とLTTEの停戦と和平を仲介をするため、過去3年間で特使を4回派遣している。
ある外務省関係者は5日、AFPの取材に対し、民族間対立を真に解決するには政治的努力によるしかないと述べ、日本政府は今後もLTTEが実効支配する同国北東部の自治促進による政治解決を目指すようスリランカ政府に促していくと語った。
また、キリノッチ陥落には象徴的な意味合いはあるものの軍事面の影響は限定的で、今後も東部のジャングルでスリランカ政府軍とLTTEの戦闘が続くことが予測されるという。【1月5日 AFP】
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【ひとつのスリランカ】
“LTTEが実効支配する同国北東部の自治促進による政治解決を目指す”というのは、スリランカ政府にとってはLTTEとの戦闘以上に難題です。
多数派シンハラ人と少数派タミル人の融和に至っては、イスラエルとパレスチナの融和と同様に、人々の心の中の憎しみ・恐怖を消す作業であり、そんなことが果たしてできるのだろうか・・・とすら思えます。
以前、スリランカを旅行した際、知人の奥さんがタミル人のことを“あの人たちはスリランカ人じゃないから”と切り捨てたのが、今も思い出されます。

しかし、この小さな島に平和を取り戻すためには、オバマ新大統領の言う“ひとつのアメリカ”のように、“ひとつのスリランカ”を実現すべく努力するしかありません。
そのためには、多数派で既得権益を持つシンハラ人側が譲らないといけないことが多々でてくるように思えます。
偏狭な民族主義が跋扈しがちなのはスリランカも同じですが、スリランカ政府・国民はそれを超えて“ひとつのスリランカ”をつくることが可能でしょうか。


コメント
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