(アラスカのFort Greelyに地上配備されているミサイル迎撃用ミサイル “flickr”より By Army.mil
http://www.flickr.com/photos/soldiersmediacenter/1276059371/)
昨年は、アメリカが進めるミサイル防衛(MD)計画に対し、ロシアが強い警戒感を示し、グルジア問題での対立も絡んで“新冷戦”といったことも懸念されていました。
ロシアのメドベージェフ大統領は、アメリカがポーランドとチェコで進めるミサイル防衛システムの配備計画への対抗措置として、ポーランドに隣接する飛び地(カリーニングラード)にミサイルを配備する方針を発表するなど、緊張が高まっていました。
こうした緊張状態はオバマ新政権成立によって、緩和の兆しが見えます。
****ロシアがカリーニングラードへのミサイル配備停止****
ロシアは、米国がミサイル防衛(MD)計画を見直す方針であることを理由にカリーニングラードへのミサイル配備を中断した。インタファクス通信がロシア軍幹部の話として伝えた。
それによると、この幹部は「米新政権がMD計画の実行を急がないという事実に関連し、ミサイル配備計画の実行は停止された」と述べた。【1月28日 ロイター】
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オバマ次期米大統領の外交政策顧問は昨年11月8日、オバマ氏がポーランドのカチンスキ大統領と7日に電話会談し、ブッシュ政権が進めていた同国へのミサイル防衛(MD)施設建設計画の推進を確約せず、慎重姿勢を示したことを明らかにしました。
もっとも、ポーランド大統領府は、オバマ氏が電話会談で“ロシアの反発を受けても東欧防衛のためのミサイル配備計画を進めると述べたことを明らかにした”と発表しており、両者の解釈には隔たりがあります。
また、オバマ政権発足に先立ち今月15日に開かれた新閣僚らの承認のための上院公聴会において、国防次官(政策担当)に指名された米シンクタンク新米国安全保障研究所(CNAS)のミシェル・フロノイ所長は、ブッシュ政権が進めた東欧へのミサイル防衛(MD)配備計画の見直しを検討すると明言しています。
フロノイ氏はロシアとの関係も含めた幅広い安全保障の観点から、「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)の検討項目に含めると説明しています。
今月26日には、オバマ新大統領はロシアのメドベージェフ大統領と電話協議を行いましたが、その電話会談において、オバマ大統領はメドベージェフ大統領に対し「米ロ両国は核兵器削減と拡散防止へ重要な役割を果たさなければならない」と述べ、核兵器削減交渉の仕切り直しに強い意欲を表明。ミサイル防衛の東欧配備計画やグルジア問題などで冷却化した米ロ関係の改善に向け、両首脳は早期の会談を目指すことで一致したと報じられています。【1月27日 時事】
ロシア側も、ロシア軍戦略ミサイル部隊司令官のニコライ・ソロフツォフ大将が、アメリカが欧州におけるミサイル防衛(MD)計画を破棄すれば、ロシアは一部戦略兵器の開発を停止するとの方針を示し、歩み寄りの姿勢を見せていました。【12月19日 ロイター】
今回のロシア側のカリーニングラードへのミサイル配備中断は、こうした一連の動きを受けてのものです。
アメリカとロシアの間には戦略兵器削減条約の問題もあります。
冷戦崩壊を受けて成立した第1次戦略兵器削減条約(START I)は、今年12月5日に失効することになっています。
START Iは、失効1年前までに条約延長の是非などについて協議を始めることが取り決められており、この規定を踏まえて、昨年11月中旬から米ロの政府間協議も行われています。
もちろんこうした問題の裏側にはそれぞれの思惑があるのでしょうが、なんといっても二大核保有国である米ロ間の緊張が和らぐというのは、何はともあれ歓迎すべき方向でしょう。