孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリア  移民問題・人種差別を越えられるか

2009-01-26 20:58:25 | 世相

(ローマの街角で “flickr”より By e://Dantes
http://www.flickr.com/photos/dantes102/2084540933/)

【不法移民収容所】
イタリアで不法移民の集団脱走するという事件がありました。

****不法入国者1300人脱走 伊南部の小島の収容所****
ANSA通信によると、地中海の小島、イタリア南部のランペドゥーザ島で24日、不法入国者収容所から1300人以上が集団脱走した。脱走に伴う死傷者は伝えられていない。脱走したのは北アフリカなどからの不法入国者で、「われわれに自由を」と叫びながら行政施設がある島の中心部の広場に向かった。収容所にはチュニジアやリビアなどから船で欧州を目指して難破した不法入国者らが多数収容されていた。【1月24日 共同】
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この施設はアフリカからの不法入国者ら約2000人を収容していますが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は今月23日、収容者数が定員の約850人を大幅に上回り、「人道上、劣悪な環境にある」と懸念を表明していました。
なお、脱走者の大半が24日夜までに施設に戻り、大きな混乱は起きていないとも報じられています。

大量の移民を抱えるヨーロッパ社会では、移民をめぐる様々な問題に悩んでおり、不法移民もそのひとつです。
同じように大量の移民を抱え、暴動なども経験しているフランスと比べても、「パリには医者までアフリカ系がいるが、イタリアではまず見ない。」【後述 毎日記事】といった声もあるように、イタリアにおける移民問題は深刻な亀裂を社会にもたらしています。
昨年4月の総選挙で誕生したベルルスコーニ政権は治安強化を公約としており、昨年8月には、不法移民による犯罪対策などのために陸海空軍の兵士3000人を全土に展開することを決めています。

【ラチズモ(人種差別)】
****イタリア:外国人襲撃相次ぐ 噴出する「人種差別」論****
イタリアで9月以降、アフリカ人や中国人が被害に遭う殺人、傷害事件が連続して発生している。激しやすい加害者による衝動的な暴力という面もあるが、経済悪化も重なり「ラチズモ(人種差別)」という言葉がマスコミで多用され、人種差別に反対するデモが各地で起きている。【中略】
加害者がイタリア人、被害者が外見の違う外国系という構図から、国内メディアは一斉に「人種差別」と結論づけた。しかし、事件には、商売上のトラブルや縄張り争い、少年の非行という側面もあり、憎悪や恐怖が絡む「人種差別」と結論づけるのはそう簡単ではない。【08年10月17日 毎日】
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上記記事で、 カルロ・モンガルディーニ・ローマ大サピエンツァ校教授(政治科学)はイタリアの「人種差別」問題について次のように語っています。
“イタリアでは人種絡みの事件の裏で、ファシズムを見直す声が聞かれる。アレマノ・ローマ市長が「ファシズムには良い面もあった」と発言するなど、ムッソリーニ政権を再評価する言動が目立つ。
これは、現状をまともに語れない政治家がファシズムを持ち出し、大衆の関心を引いているだけだ。ファシズムや人種差別についての軽はずみな議論が、国民に将来への不安や脅威をもたらし、差別的な事件を起こさせている。
イタリア人は内向的な性格で、すぐによそ者を恐れる。統率力のあるドイツ的な強い文化ではなく、外国人と融和する包容力を持たない弱い文化だ。
「人種差別」は今後、経済悪化でますますひどくなる。中国やインド、東欧などの成長が、イタリア経済を低迷させ、この国のモラルなど文化面を壊し、デカダンス(退廃)の時代に入る。西欧で最も力の弱いイタリアで真っ先に差別的な事件が増長していくだろう。”

ベルルスコーニ首相はオバマ大統領について「若く、ハンサムで、よく日焼けしている」と形容し、国内外からひんしゅくを買ったことがあります。
「現状をまともに語れない政治家がファシズムを持ち出し、大衆の関心を引いているだけ」・・・イタリアも日本同様、政治家にはあまり恵まれていないようです。
内向的な性格で、すぐによそ者を恐れる。外国人と融和する包容力を持たない・・・このあたりも日本にもあてはまりそうです。

こうした深刻な移民、人種差別問題を抱える一方で、昨年11月には、アフリカ系移民の生き様を描いた実話映画「ビッロ」が話題を呼んでいることが報じられていました。

【親しみやすく、すぐ友達になれる】
****イタリア:話題、アフリカ系移民の実話映画「ビッロ」****
イタリアはいずれ移民を心から受け入れる--「ビッロ」は見る者を前向きにさせる。自分自身を演じたセネガル俳優らローマに暮らす若者の気分を、そのまま映し出しているからだ。
映画の主人公は西アフリカ・セネガル出身の青年ビッロ。ファッション業界を夢見て違法入国するが、ローマでの職は海賊版CDの販売。拘置中にためた金を盗まれる。それでも運よく仕立ての仕事にありつき、気立てのいいイタリア女性と出会い、結婚する。

90年にセネガルから密入国した主演俳優、ティエルノ・ティアムさん(35)も(首相のオバマ氏に関する冗談について)「まあ、からかわれるけど」と言う。だが「一切気にせずに来た。自分の心が強ければ、誰が何と言おうと腹は立たない」と話す。映画を明るくしているのは、この人のキャラクターが大きい。アフリカ系などの死傷事件についてティアムさんは「差別というより、よその世界を知らない人の無知だと思う」と語る。 イタリア在住の外国人は9年前の4倍に増え440万人。人口の7%強に達した。
【中略】
「ローマ人は昔からよそ者を一族に抱き込んできた。ビッロのように家族になった者は認める。だから人種差別は騒がれているほど緊急課題ではない」とボニーニさんはみる。
「パリには医者までアフリカ系がいるが、イタリアではまず見ない。多文化社会になるには時間がかかる。でも、この国の良さは人が親しみやすく、すぐ友達になれるところだ」とティアムさんは言う。【08年11月14日】
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「内向的な性格で、すぐによそ者を恐れる。外国人と融和する包容力を持たない」社会か、「人が親しみやすく、すぐ友達になれる」社会か・・・移民問題の今後の推移で、そのあたりは検証されます。


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