(中東訪問中のクリントン国務長官と会談するネタニヤフ新首相(会談時はまだ首相に就任していませんでしたが。)
中東和平に消極的なネタニヤフ氏は最初の首相時代、夫のクリントン元大統領とはうまくいきませんでしたが、今回はどうでしょうか。“flickr”より By U.S. Department of State
http://www.flickr.com/photos/statephotos/3326623890/)
【対パレスチナ強硬派の右派政権】
イスラエルでは周知のとおり、右派リクードを軸とする連立内閣が組閣され、中東和平への先行きに対する懸念が強まっています。
****右派軸のネタニヤフ新内閣発足 イスラエル*****
イスラエル国会(定数120)は3月31日深夜、右派政党リクードのネタニヤフ党首が提出した組閣名簿を賛成多数で承認し、ネタニヤフ氏を新首相とする連立内閣が発足した。パレスチナ政策で強硬姿勢をとる右派を軸としているため、中東和平でいっそうの停滞が懸念されている。
ネタニヤフ氏は承認に先立つ国会演説で、パレスチナとの和平について言及。「イスラエルの脅威とならない権限すべてを与える合意が可能だ」と述べたが、パレスチナ国家樹立には具体的に言及しなかった。
新政権はリクード(議席数27)のほか、右派の「イスラエル我が家」(同15)、シャス(同11)、「ユダヤの家」(同3)に左派労働党(同13)を加えた5党(計69議席)の連立。右派中心の連立に反発し、国会での承認では投票しない労働党議員も数人いた。ネタニヤフ氏は政権基盤を安定させるため、右派政党のユダヤ教連合(同5)との連立交渉を進めている。
外相には、イスラエル国内のアラブ系住民の排斥を主張する「我が家」のリーベルマン党首、国防相には前政権から引き続き労働党のバラク党首が就任した。【4月1日 朝日】
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その後、ユダヤ教超正統派の政党、ユダヤ教連合(5議席)も新政権参加で合意しました。
これで、ネタニヤフ政権は6党での連立となり、国会定数120のうち74議席を占めています。
かつて首相を務めた際、当時のアメリカ・クリントン大統領との関係がうまくいかなかったネタニヤフ氏は、当初第1党である中道政党カディマとの大連立によって外交上の選択肢を広げることを試みましたが、イスラエル・パレスチナの「2国家共存」をネタニヤフ氏が確約しなかったことでこの試みは失敗しました。
【「2国家共存」への賛否は明言せず】
ネタニヤフ氏は国会演説で「イスラエルはこれまで以上にアラブ、イスラム諸国との包括和平の達成に努力する」と強調しましたが、パレスチナ国家樹立によるイスラエルとの「2国家共存」への賛否は明言していません。
****「パレスチナとの和平交渉の用意ある」=ネタニヤフ・イスラエル首相*****
イスラエルの右派主導内閣を率いるネタニヤフ首相は31日、国会の同内閣信任投票に当たって演説し、パレスチナと和平に向けて話し合う用意があると述べた。
同氏は「パレスチナ自治政府の指導者に向かって話している。もし真に平和を欲するなら、和平合意は可能だ」と述べた。同氏はしかし、テロに対しては最後まで戦う決意を強調し、「平和のためにはパレスチナもまたテロと戦うことが必要だ。彼らは子供たちを平和の中で育て、パレスチナ人がイスラエルをユダヤ人の故国と認めるための準備をしなければならない」と語った。
同氏は和平の最終合意に向けて自治政府と協議を行う意思を表明し、他国民を支配することは望んでおらず、最終合意ではパレスチナ人は、イスラエルの存在と安全を脅かすような事柄を除いて、自らを統治するすべての権利を持つだろうと述べた。【4月1日 時事】
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左派労働党の連立入りは意外な感じも受けましたが、“国会第1党の中道政党カディマが政権入りを拒否している状況で下野しても埋没しかねず、危機感を募らせていた。 労働党のバラク氏は24日朝、ネタニヤフ氏と会談。自らが留任する国防相など5閣僚のポストと、新政権が中東地域の包括和平の実現を目指し、パレスチナ国家との「2国共存」を順守するなどの言質を条件に、連立参加に合意した。”【3月25日 毎日】とのことです。
ただ、党内には右派政権への参加に根強い反発があります。
イスラエルの大統領はかつて左派労働党に属し、その後中道カディマ支持に変わったペレスですが、ペレス大統領は、大統領公邸で開いた新政権発足を祝うセレモニーで、対パレスチナ強硬派のネタニヤフ首相に、中東和平の実現に向けイスラエルとパレスチナの「2国家共存」構想を追求するよう促しています。
一方、パレスチナ自治政府のアッバス議長は、ネタニヤフ首相について「『2国家共存』を信じていない。占領地でのユダヤ人入植地の拡大も凍結しないだろう」と不信感を隠さなかったと報じられています。【4月1日 毎日】
【リーベルマン外相 アナポリス会議の覚書を否定】
ネタニヤフ首相の考えがどこにあるかもさることながら、外相に極右政党とも分類される「我が家イスラエル」のリーベルマン党首がついたことも、今後の中東和平の懸念材料です。
****イスラエル:新外相、和平交渉再開に消極的発言****
ネタニヤフ・イスラエル政権の外相に就任した極右わが家イスラエル党首のリーベルマン氏は1日、外務省職員らを前に演説。前政権とパレスチナ自治政府が約7年ぶりに和平交渉を再開する根拠となった米アナポリスの中東和平国際会議(07年11月)での合意について、「既に効力はない」などと発言した。
米国主導で開かれた同会議には約40カ国が参加し、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」の堅持を確認した。リーベルマン氏は一方で、同じく「2国家共存」を掲げる米露、欧州連合(EU)、国連が03年に提示した新中東和平案(ロードマップ)には「従う」と述べたが、和平に関する新政権の消極性を改めて印象づけた。【4月1日 毎日】
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中東和平に関する考え方はネタニヤフ新首相もリーベルマン外相も共通しており、「エルサレムの帰属とか入植地からの撤退という問題からではなく、パレスチナの経済発展と(イスラエルに危害を加えることがないように)治安部隊の強化・安全保障の確立から着手すべき」というものです。
リーベルマン外相はかねてより、イスラエル国内のアラブ系住民の排斥を意図しているともいわれています。
具体的には、第3次中東戦争以前からのイスラエル領であるワディアラ地区のアラブ人をパレスチナ自治区に移住させて、パレスチナ自治区内のイスラエル人入植地をイスラエルに併合すべきと提案しています。
こうした、アラブ系住民排斥の背景には、人口増加率からして、将来イスラエル国内においてアラブ系住民(現在、イスラエル総人口の20%)がより大きな比重を占めるようになる事態、イスラエルが“ユダヤ人の国家”でなくなる事態をユダヤ系イスラエル国民が恐れているとも言われています。
リーベルマン外相は就任後初の演説で、上記記事にあるように「イスラエルに履行義務がある文書は1つきりで、それはアナポリス会議の覚書ではない。ロードマップだけだ。イスラエル政府と議会は、アナポリスを一度も承認してはいない」と発言。
パレスチナ自治政府側はこれに反発。“リーバーマン外相は「和平の障壁」だ”と非難し、国際社会に対し、イスラエルに対話路線に戻るように圧力をかけるよう要請しています。【4月2日 AFP】
そのリーベルマン外相が就任早々、警察から収賄や資金洗浄(マネーロンダリング)などの疑いで事情聴取を受けたことが報じられています。
リーベルマン外相は、容疑を否定する一方、「(捜査に)政治的な思惑があるのは明らかだ」と反発しています。
“国策捜査”批判というところでしょう。
イスラエルのメディアによると、リーベルマン氏に対する捜査は13年前から続いているそうです。
警察は、この日の聴取予定は数日前からリーベルマン氏側と調整しており、今後も捜査は継続するとしています。【4月3日 毎日】
【ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地で事件】
もうひとつ、今後への影響が懸念される事件も報じられています。
****パレスチナ人が斧でユダヤ人少年を殺害、西岸入植地****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地バトアインで2日昼過ぎ、少年2人が斧(おの)を持ったパレスチナ人の男に襲われ、13歳の少年が死亡、7歳の児童が負傷した。男は逃走。イスラエル軍が大規模な捜索を実施し、ラジオやテレビを通じて住民に外に出ないよう呼びかけるなど、町は騒然となった。
バトアインは西岸南部ベツレヘムの南西にあり、イスラエル入植地の中でも急進派が多いことで知られる。
負傷した児童の父親は、2002年にエルサレムのパレスチナ人女学校襲撃を企てた罪で、現在服役中。
町の人口は1000人ほどで、普段はパレスチナ人を町中に入れることはないという。
イスラム原理主義組織「イスラム聖戦」と「イマド・ムグニエ・グループ」という組織が、AFPに対し電話で犯行を認め、西岸の各メディアに向けて声明を発したが、ガザ地区のイスラム聖戦は関連を否定している。
事件に対し、イスラエル右派新政権のベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「断固とした政策」で応じると述べ、パレスチナ自治政府にも同様の対応を取るよう求めた。【4月3日 AFP】
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“イスラエルで右派主導のネタニヤフ政権が発足直後の事件だけに、不穏な空気が漂っている。”【4月2日 毎日】とも。
大きな混乱に繋がらなければいいのですが。