孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ソマリア  海賊行為の過激化 新大統領への期待

2009-04-17 21:34:11 | 国際情勢

(ソマリアの首都モガディシオ入りしたアハメド新大統領 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/3304780320/)

【海賊 “報復”へ過激化】
東アフリカ・ソマリア沖の海賊対策には日本も海上自衛隊の2隻の護衛艦を派遣して海上警備行動を行っていますが、一時減少したかに見えた海賊行為が再び活発化しています。

****ソマリア海賊:再び活発化 2週間で19隻襲われる****
東アフリカ・ソマリア沖の海賊活動が再び活発化している。国際海事局や報道によると、海上自衛隊の派遣部隊が日本関連船舶の護衛任務を開始した先月30日から12日までに、19隻の商船などが襲撃され、6隻で乗組員が人質に取られた。
各種報道によると、現在、海賊は17隻前後を捕獲、約250人を人質に取っている。昨年1年でソマリアの海賊は身代金で1億5000万ドル(約150億円)を手にしたとの推計もある。
アデン湾周辺には日本も含め20カ国前後の軍艦船が海賊対策を展開している。しかし、対象海域は広大で「どこでも急行とはいかない」(米国防総省)のが実情だ。海賊は活動範囲をソマリア南東海域に移しつつあり、「いたちごっこが続く」(船舶警備会社の担当者)見通しだ。【4月14日 毎日】
***************************

特に、人質救出のためアメリカ軍が12日に海賊3人を、フランス軍が10日に海賊2人を射殺して以来、これまでの金目当てのビジネスとしての海賊行為から、“報復”の色合いを帯びて過激化する懸念がでてきています。
中東の海域を管轄する米海軍第五艦隊のゴートニー司令官は12日の記者会見で、「今回の出来事が、この海域における暴力をエスカレートさせることに疑問の余地はない」と語っています。【4月14日 時事】 

14日には、ソマリア沖を航行中の米貨物船「リバティ・サン」が海賊の乗った船からロケット弾や自動小銃の攻撃を受け被弾しましたが、AFP通信は海賊側の話として、米海軍が人質となった米人船長救出作戦で海賊3人を射殺したことに対する報復として攻撃したと報じています。【4月16日 毎日】

また、国際テロ組織アルカイダ系の「アラビア半島のアルカイダ」は15日、海賊対策のためイエメンやソマリア沖などに派遣されている欧米の海軍艦艇などへの攻撃を、周辺地域のイスラム教徒に呼び掛ける音声声明をウェブサイト上で発表しています。【4月16日 毎日】

陸上でも、アメリカの人質救出劇から数時間後、ソマリアの首都モガディシオの空港に、迫撃砲が撃ち込まれました。
当時、海賊対策を協議するためソマリア入りした米下院外交委員会委員のドナルド・ペイン議員が空港にいましたが、議員にけがはありませんでした。【4月14日 AFP】

アメリカ側も緊急対策を発表しています。
****海賊:米国が四つの緊急対策 武器購入ルート遮断など柱に*****
東アフリカ・ソマリア沖で多発する海賊に対処するため、クリントン米国務長官は15日、国際会議招集や海賊の武器購入ルート遮断などを柱とする四つの緊急対策を明らかにした。長官は「17世紀の犯罪」に「21世紀の解決策」が必要と述べ、国際的な取り組みを訴えた。
海賊対策に関する国際会議への参加国は30カ国以上とみられる。海賊は身代金で高性能な船や武器を購入していることから、各国が協力して海賊との取引業者の取り締まりなどを行う。
また、ソマリア暫定政府や地域の部族長らと協力するための外交チームを派遣する。【4月16日 毎日】
***********************
上記アメリカの対策には、海賊行為に対する刑事手続きの強化のほか、海賊が身代金などで得た資金の追跡調査や凍結などが含まれています。

【ソマリア国内情勢】
「21世紀の解決策」も結構ですが、ソマリア海賊問題を語る人の皆が口にするように、基本的には無政府状態のソマリア国内の安定なくしては問題が解決しないことは言うまでもありません。

ソマリアの混乱は、氏族間の対立・内戦とイスラム原理主義勢力の台頭、ソマリアに潜伏するアルカイダ勢力とアメリカの対立、アメリカの代理として侵攻した隣国エチオピアとエリトリアの対立・・・といったいくつかの軸が絡み合っています。

長年の氏族間の内戦に疲弊した国民の支持も集めて、06年6月にイスラム原理主義「イスラム法廷会議」が首都を押さえましたが、同年12月にはエチオピアが侵攻、アメリカもこれを支援。
いったんはイスラム原理主義勢力を駆逐しました。
しかし、「イスラム法廷会議」の残党との戦闘、エチオピア介入に対する国民の抵抗で戦火は一向に収まらず、暫定政府の混乱も続き、暫定政府が押さえているのは首都の一部のみといった状況です。

****政変機に海賊激増*******
海賊対策に躍起な米側は「原因はソマリア政府の不安定さだ。全土を支配できない政府が、海賊を摘発できずにいる」(米海軍第5艦隊報道官)とし、ソマリア側の責任を強調する。
だが、海賊の襲撃が急増し始めたのは、首都を制圧していたイスラム法廷会議が、エチオピア軍に敗れた06年末以降のことだ。
法廷会議と国際テロ組織アルカイダの関係を疑ったブッシュ米政権は、エチオピア軍の侵攻を支持した。法廷会議はそれまでの半年間、治安を改善し、海賊の摘発を強化していただけに、米の後押しによる政変が、以後の混とん状態と海賊の激増につながったと指摘される。

海賊と背後で結びついていると疑われる組織がある。イスラム法廷会議から分派し、「ソマリアのタリバン」とも言われる若い武装勢力「アルシャバブ」だ。現地の情報では、法廷会議より過激で暫定政府をも揺るがしている。
海賊と連携し、得た身代金を武器購入にあてているとの報道もある。
米政府は08年3月、アルシャバブをテロ組織に認定した。アルカイダと海賊にも関連づけ、掃討を図ろうとしている。
だが、現地では「対テロ戦争を進めながら、結果的に過激派の伸長を招いた米政策は完全な失敗だった」(アブドラ氏)との見方が強い。08年5月に米軍の攻撃でリーダーを失ったとされるアルシャバブは反米姿勢を強めており、米側への攻撃も予想されるという。【08年11月27日 毎日】
***********************

【アハメド新大統領への期待】
昨年12月末には、イスラム法廷会議の残存勢力からなるソマリア再解放同盟との和解交渉をめぐって首相と対立が続いていたユスフ暫定政府大統領が辞任。
今年1月には、治安悪化に嫌気したのか、エチオピアが撤兵。
1月31日、イスラム教穏健派の指導者シャリフ・アハメド氏が暫定大統領に選出されました。
バーレ政権が崩壊した1991年以来、暫定政府の発足は15回目となります。

“アハメド氏は、昨年に暫定政府と停戦合意し、今年1月に暫定議会に加わったイスラム勢力、ソマリア再解放連盟(ARS)の指導者。2006年に首都モガディシオを勢力下に置いたイスラム原理主義組織「イスラム法廷会議」を率いた過去があり、同組織から分派した過激派などとの局面打開に期待がかかる。
だが、エチオピア軍の撤退後、暫定政府の拠点都市バイドアを制圧した過激派は徹底抗戦の構え。他の武装勢力も活動を活発化させており、アフリカ連合(AU)の平和維持部隊の支援で、首都を部分掌握するだけの暫定政府の前途は険しい。”【1月31日 読売】

歴代の暫定政府は首都に拠点を置いたことはなく、今年1月の暫定議会の大統領選も隣国ジブチで行われました。
2月始め段階では、“アハメド大統領本人がソマリアの首都モガディシオに入ることを目指しているが、国土の大半を押さえる過激派勢力は徹底抗戦の構えを崩していない。”と報じられていました。

2月22日、アフリア連合ソマリア平和維持部隊(AMISOM)司令部への武装勢力「アルシャバブ」の攻撃でブルンジ兵11名が死亡しましたが、その直後にアハメド新大統領は空路モガディシオに入ったようです。

大統領が首都に入るのが難しい政権というのも想像し難いものがありますが、有力氏族出身で、イスラム過激派との人脈もある大統領への期待もあります。
“アハメド新大統領は反政府勢力が主張するイスラム法(シャリア)施行の要求を一部受け入れるなど、国内各勢力の和解に向けて動き出している。”【ウィキペディア】とも。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする