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(1988年3月13日、ラングーン工科大学(現在のヤンゴン工科大学)付近の喫茶店で学生が地区の有力者の息子らと口論となり、やがて学生デモ隊と治安部隊の衝突に拡大。安部隊の発砲により学生活動家ポ―モウ(Phone Maw)らが死亡しました。この事件は大規模な民主化要求運動へと展開しましたが、学生・僧侶数千人が国軍によって殺害される結果となりました。
21年後の今年3月13日、ロンドンのミャンマー大使館前で行われたミャンマー軍事政権への抗議活動
ロンドンなど国外でのこうした抗議活動だけでは、現状は変わらないのも現実です。変化に向けた現実的対応がやはり必要なのでは・・・。“flickr”より By totaloutnow
http://www.flickr.com/photos/totaloutnow/3381181600/)
【イランにビデオメッセージ】
アメリカ・オバマ大統領は、ブッシュ政権時代の一国主義・戦闘重視の姿勢から、敵対国家との対話・国際協調を重視する姿勢に舵を切っています。
そのひとつの表れが、広く報じられている先月のイランへのビデオメッセージです。
****米大統領:対話を直接呼びかけ イランにビデオメッセージ*****
オバマ米大統領は20日、ホワイトハウスのホームページで、イランの国民と指導者に向けたビデオメッセージを出し、「米国とイラン、国際社会の建設的な関係」を求めた。米大統領が断交中のイラン側に関係改善を直接呼びかけるのは初めて。
メッセージは20日のイラン暦元日を祝う形で発表された。オバマ大統領は、両国間には深刻な相違点があるが、米国はあらゆる課題に立ち向かう外交を展開しており、イランとも「誠実でお互いへの敬意に基づいた関与を求める」と述べた。
大統領は一方で、「テロや武器ではなく、平和的な行動」が必要として、イランにテロ支援や核開発の停止を要求。「両国民の新たな交流や、協調と通商の機会を伴う将来」があると強調し、イランに政策転換を迫った。
オバマ大統領は先月末のイラク戦略発表の際、地域安定化のためイランやシリアを含む周辺国との対話を打ち出しており、20日のイラク開戦6年に合わせた今回のメッセージもその一環とみられる。【3月20日 毎日】
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こうした動きは単に“話し合い外交”という理念だけの問題ではなく、イランの場合、6月のイラン大統領選を踏まえてイラン側の各政治勢力や候補に米国への対抗や敵対をあおることを抑える計算、更に、イランの核兵器開発とみられる動きが予想以上に前進していることが国際原子力機関(IAEA)の新たな報告で明らかにされたことなど、現実的な要因があるとも伝えられています。【3月23日 産経】
また、イラン側の反応も、直接対話に即時に応じるというものではありません。
イランの最高指導者ハメネイ師は「(オバマ大統領は)変革を口にしてはいるが、実際には何らの変化も見受けられない」と述べ、直接対話に即座には応じられないとの考えを示唆しています。
【変化の兆し】
ただ、ハメネイ師は「あなたが変わるなら、われわれの行動も変わる」とも語り、今後の対話には含みも持たせています。
現実的動きとしては、オランダ・ハーグで開催されたアフガニスタンの安定化に関する国際会議にイランも出席する形で、変化が見えはじめています。
****米国とイランの高官が接触 アフガニスタンの再建では意見一致****
ヒラリー・クリントン米国務長官は、3月31日にオランダ・ハーグで開催されたアフガニスタンの安定化に関する国際会議で、米、イラン両政府の高官が短時間、直接接触したことを明らかにした。バラク・オバマ政権にとって、イラン側と直接接触するのは今回が初めて。
米、イランの両国はアフガニスタンの再建という点では意見が一致したものの、イランは米軍のアフガニスタン増派について、イスラム原理主義組織タリバンを壊滅させることはできないとの見方を示し、長年対立してきた両国の和解にはほど遠いことを示した。【4月1日 AFP】
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オバマ大統領は“武器だけでは解決できない”として、文民派遣による民生支援拡充、多国間の協力枠組み構築を一体的に進める新戦略を打ち出していますが、アフガニスタンへの1万7千人増派に続いて4千人追加増派を決定し、軍事増派路線も強めています。
ハーグでのアフガニスタン安定化国際会議も、アフガンに対する軍民両面の支援強化を盛り込んだオバマ米政権の新戦略を評価、国際支援の拡充と連携をうたった議長声明を発表して閉幕しました。
【“武器だけでは”と“武器では”】
こうした路線に対し、戦闘を止めない限りアフガニスタンの問題は解決しないという批判もあります。
****アフガン安定化会議:「現場の願いと違う」 市民から批判の声*****
アフガニスタン安定化国際会議は31日、軍民両面での支援強化をうたう議長声明を発表したが、アフガンやパキスタン市民の間には「現場の願いとずれがある」との批判の声があがっている。
戦闘を続ける限り市民生活は安定せず、軍に守られた民生支援が、かえって武装勢力による攻撃対象となり、市民と非政府組織(NGO)の信頼関係を損なうとの懸念がある。
米国が「テロリストの巣窟(そうくつ)」として攻撃するパキスタン部族地域出身のジャーナリスト、ナシル氏は「貧困が深刻化したのは(01年からの)対テロ戦争の後だ。戦争の呼称を変えても意味がない。戦争の終結こそが貧困対策だ」と強調する。
現地では北大西洋条約機構(NATO)軍の戦闘拡大で市民の犠牲が増え困窮が深まる一方、旧支配勢力タリバンが伸長している。「武装勢力との和解なしに問題は解決しない」との共通認識が広がっており、アフガン、パキスタン政府は武装勢力との対話を探る。
しかし、オバマ米政権は米軍を増派して戦闘を継続する構えで、安定化会議でもこの戦略は支持された。
一方、アフガンで支援を続けるNGOには、軍隊が文民を保護しながら支援に乗り出すことに危機感がある。
安定化会議ではNATO空爆による市民の犠牲について議論は乏しかった。アフガン内務省幹部は「派兵する各国の責任を帳消しにした」と分析。カルザイ・アフガン大統領の側近は「米国は世界をリセットした」と批判した。【4月1日 毎日】
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理念としては“武器だけでは”と“武器では”の間には大きな隔たりがありますが、国内政治・経済を安定させ、武装勢力との和解を探る現実的選択肢としては、そんなに隔たりはないとも思えます。
アメリカの増派に反対するイランとの間にも隔たりはありますが、宗教的問題や麻薬・犯罪の流入の観点からタリバンが拡大するアフガニスタンの現状を良しとしないイランとアメリカの協調も充分に可能であるように見えます。
【米国務省、ミャンマーへ担当部長派遣】
上記のような話を含め、オバマ政権とイランとの関係はいろいろ報じられているところですが、もうひとつの敵対国、ミャンマーとアメリカの間でも若干の動きがあるようです。
****米のサイクロン被災支援、ミャンマー政府系TVが初報道*****
ミャンマーの国営テレビなど政府系メディアは1日、対立関係にある米国が昨年5月のサイクロン被災者を支援する様子を初めて伝えた。
オバマ米政権が、経済制裁など強硬路線一辺倒だった対ミャンマー政策の見直しを進めていることから、対米関係改善に向けた動きとみられる。
報じられたのは、米国の代理大使らが1日、1万6620トンの米を最大被災地エヤワディ管区で配布する様子。米国はこれまで、総額7400万ドル(約73億6000万円)相当の支援を行ってきたが、在ヤンゴンの消息筋によると、政府系メディアが米国の支援に触れたことはなかった。
ブッシュ米前政権は、ミャンマー軍事政権が2003年に民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんを拘束したのを受け、全面禁輸や送金停止などの経済制裁を発動。その後も追加制裁を行った。だが、オバマ政権は「制裁はほとんど効果がなかった」(クリントン国務長官)として方針転換を表明、3月下旬には国務省の担当部長をミャンマーに派遣した。【4月2日 読売】
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【事態改善へ向けた現実的対応】
この件に関する報道は他になく詳細はわかりませんが、アメリカはミャンマー軍事政権との関係についても見直しに動いているようです。
対話・交渉の相手とすることは、ミャンマー軍事政権を認めることにもなります。
ミャンマーでは来年、20年ぶりとなる総選挙が行われる予定ですが、既に成立した新憲法で国会議員の25%を国軍司令官が指名するとなっていることや、スーチーさんらの選挙参加が認められない形になっていることなど、民主的選挙とは呼べないものになっています。
軍事政権を交渉相手とし、また、現体制維持を前提にした民主的とは言いがたい総選挙に参加することは、現状を認めることにもなり忸怩たるものがあります。
しかし、軍事政権を支える中国の存在、ASEANに打開策がない現状、サイクロン被害者を見捨てるような国内政治、民主化運動への弾圧、ロヒンギャ難民にみられるような少数民族対策・・・等々を考えると、自己満足的に批判だけしていても一歩も前進はなく、国内で暮らす人々のためにいくらかでも事態の改善につながる道を探るべきではないかと思えます。