(モルドバによるルーマニア市民への迫害に抗議するルーマニアの極右団体(Noua Dreapta)のメンバー ルーマニアとモルドバの関係は、双方でいろいろあるようです。 “flickr”より By oaspetele_de_piatra
http://www.flickr.com/photos/oaspetele_de_piatra/3411954240/)
【ルーマニアとの統合と“ヨーロッパの最貧国”】
東欧のモルドバ、あまり馴染みのない国のひとつです。
08年2月19日ブログで、コソボ独立の影響の関連で一度取り上げたことがあります。
そのときのブログから、モルドバの概略を再掲する以下のようなところです。
モルドバはルーマニアとウクライナに囲まれた国で、かつてはソ連を構成していましたが、ソ連崩壊時にモルドバ共和国として独立しました。
歴史的にも、民族・言語的にもルーマニアと一体的な関係にありますので、91年の独立時から、“将来的にはルーマニアとの統合”ということがモルドバ・ルーマニア双方に想定されていました。
しかし、国の東部に位置するドニエスル川東岸地域(別称:トランスニストリア、トランスドニエストル)にはロシア人・ウクライナ人が多く居住しており(ルーマニア(モルドバ)人、ロシア人、ウクライナ人が各々約30%)、91年に「沿ドニエストル共和国」として独立を主張、ロシア・ウクライナ・沿ドニエストル合同の平和維持軍によって停戦監視が行われています。
グルジアのアブハジアと南オセチア同様、国際的には国家として承認されていませんが、モルドバの実効支配が及んでおらず、ロシアの傀儡政権的な状態にあります。
独立後の急速な市場経済化で従来の国営企業を中心とした経済体制が崩壊、更に、トランスニストリア問題で対立するロシアが天然ガス価格の値上げ、最大の輸出品であるワインの禁輸(国際的品質基準を満たしていないという理由)でモルドバに圧力をかけ、“ヨーロッパの最貧国”と呼ばれる状態に陥りました。
現在、共産党が政権を担当し、現実的政策で少しずつ立て直してきてはいるようで、将来的にはEU加盟を目指しています。
ルーマニアとの統合については、経済崩壊もあって、モルドバ側の熱は冷めてきているようですが、ルーマニア側はまだ意欲を示しています。
【選挙で共産党勝利 野党支持者が暴徒化】
そんなモルドバでは、今月5日、総選挙が行われ、与党の共産党が議席の過半数を占めました。
****モルドバ議会選、親ロ派勝利****
旧ソ連のモルドバで5日にあった議会選挙(定数101)は、ウォロニン大統領率いる与党共産党が過半数の52議席を確保して勝利した。同国は一時ロシアとの関係が冷え込んだが、経済面でのロシア依存を強めており、関係改善を進める共産党の外交路線が承認された形だ。ウクライナなど親欧米路線の旧ソ連諸国でも政局は不安定化しており、ロシアの影響力が再び拡大する可能性もある。
選挙は比例代表制で、議会が大統領を選出する。中央選管による得票率(開票98%)は共産党が50%、欧州との統合と経済の自由化を訴えた野党は民主党が13%、自由民主党が12%にとどまっている。野党は選挙に不正があったとして、街頭デモに訴える構えを見せている。【4月9日 NIKKEI NET】
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共産党はロシア一辺倒という訳ではなく、ロシアと欧州との間でバランスを取る外交方針とも言われますが、親欧米の野党との比較ではロシアに近く、最近では、EUの「東方パートナーシップ」(グルジア侵攻後のロシアの勢力拡大に対抗するEUの外交政策)に対し、共産党のウォロニン大統領が「対ロシア包囲戦略である」と批判し、参加を拒否しています。
今回の共産党勝利の選挙結果に野党支持者が反発、一部が暴徒化して大統領府や議会に進入し、治安部隊と衝突する事態となりました。
****モルドバ暴動で治安部隊突入 首都中枢を奪還****
旧ソ連のモルドバの首都キシニョフで議会選の結果に抗議する若者ら野党支持者の暴動が拡大していた問題は、8日未明(日本時間同日午前)、治安部隊が大統領府や議会に突入してデモ隊を排除し、政権側が首都中枢部を奪還した。ロシアのインタファクス通信などが伝えた。ただ、野党指導者らは選挙結果の再集計などを要求して抗議行動を続けるとしており、治安当局との衝突が再燃する恐れがある。
キシニョフ中心部では7日、学生など約1万人が抗議行動を行い、一部が暴徒化して大統領府や議会に侵入。大統領府から物品を略奪、議会に放火するなどし、夜間も建物の占拠を続けていた。7日には警官隊との衝突で約100人が負傷、1人が死亡しており、8日未明の治安部隊による急襲でも負傷者が出た可能性がある。【4月8日 産経】
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この暴動を受けて、与党共産党と野党指導者は緊急会談を開き選挙結果を再集計することで合意し、騒乱の収拾を図られました。
選挙結果を不満とする暴動というのは“最近よくある話”で、選挙という民主主義の形式も国民間、国民・国家間の信頼がないと機能しないということです。
【「暴動はルーマニアが関与」】
ここまでの経緯については、個人的には正直なところさほど関心もなかったのですが、今回暴動にルーマニアが関与しているとモルドバ大統領が非難しているとのことで、ルーマニア・モルドバ統合の話、ロシアの旧ソ連圏の勢力拡大にも関連して注目しています。
****モルドバ:「暴動はルーマニアが関与」大統領が非難****
旧ソ連モルドバの首都キシニョフで野党支持者が大統領官邸などを襲撃した暴動をめぐり、同国のウォロニン大統領は8日、隣国ルーマニアが関与したと非難し、駐モルドバのルーマニア大使を追放する意向を表明した。
治安機関が市内を鎮圧し、200人近くを逮捕したが、約270人が負傷するなど混乱が続いている。
インタファクス通信などによると、ウォロニン大統領は暴動の際にルーマニアの国旗が掲げられた点を取り上げ、同国が関与していると主張。ルーマニア外務省は「国内問題の責任転嫁だ」と反論した。
一方、ロシアもルーマニアによる関与の可能性を指摘し、欧州連合に適切な対応を取るよう要求している。
モルドバは、第一次大戦後にルーマニアに併合されたが、第二次大戦時に旧ソ連領に再編入され、ソ連崩壊時に独立した。【4月9日 毎日】
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“暴動の際にルーマニアの国旗が掲げられた”からルーマニアが関与している・・・というのはいささか乱暴ですが、野党勢力はルーマニアとの統合を望んでいるそうですから、普段からルーマニアとの間で親密な関係があったことは充分想像できます。
野党側は8日の記者会見で、「騒動を平和的方向に導こうとして失敗した」と表明。
今後の抗議行動の計画はないとしていますので【4月8日 朝日】、恐らくこの騒動はいったんは終息するのではないでしょうか。
結果的にはロシアの影響力が更に強まりそうな感じです。
【揺れる東欧、拡大するロシア】
グルジアを力でねじ伏せたロシアは、経済的に追い詰められているウクライナにも50億ドルの融資を行う姿勢を見せ、関係強化を図っています。
また、ロシアはベラルーシへも融資を行っていますが、ベラルーシはEUとの関係も保持しています。
経済的に困窮する東欧諸国は、資金と軍事力をちらつかせるロシアとEUの間で揺れている状況ですが、EU主要国自体に余力がなく、また、ウクライナやグルジアへの失望もあって、EU側のアプローチは鈍いところもあります。
この結果、ロシアの影響力が今後更に拡大して、旧ソ連圏再編にもつながるような雰囲気があります。