(イスタンブール市街を二分し、ヨーロッパとアジアを隔てるボスポラス海峡 海峡には二本の橋が架けられていますが、現在日本企業の工事で海底トンネルの建設が進められています。
“flickr”より By Travel Aficionado
http://www.flickr.com/photos/travel_aficionado/2280424530/)
【「欧州の一角」】
アメリカ・オバマ大統領は欧州歴訪・NATO首脳会議出席の後、トルコを訪問しています。
アジアとヨーロッパにまたがる国、トルコにとっては、この“欧州外遊の延長”としてトルコを訪問することが非常に重要なようです。
****オバマ大統領:6日トルコ入り 「イスラムとの融和」狙い*****
オバマ米大統領は、フランスでのNATO首脳会議を終えた後、チェコを経て、6日にトルコに入る。
トルコは、イスラム国家との融和を掲げるオバマ政権が世俗イスラムの代表国トルコの役割を重視し、両国の戦略関係の再構築を図ると期待している。
特にトルコは、今回の訪問が大統領の欧州外遊の延長で実現する意義を強調。トルコが「欧州の一角」であるとアピールする考えだ。
「オバマ大統領の訪問はトルコの国際的な重要性を示している」。トルコのギュル大統領は先月27日の記者会見でこう語り、自国の存在感に自信を見せた。トルコは国民の大半がイスラム教徒ながら、徹底した世俗主義を掲げる。イラク駐留軍の撤退やアフガニスタン、中東和平などの難題を抱える米国が、中東地域でトルコが果たす役割に期待しているとの主張だ。
それに加え、トルコが最も重視しているのは、大統領訪問が中東外遊の延長線でなく、欧州外交の流れの中で実現することだ。3月に訪問したクリントン米国務長官もエジプト、イスラエルなど中東歴訪後、いったんブリュッセルに移動してからトルコに戻った。政治日程の都合もあるが、トルコは、米国が自国に対する軸足を中東から欧州に切り替えたとみている。
イスタンブール・ビルギ大学で教壇に立つトルコ紙「ハベル・トルコ」のソリ・オゼル外信部長は「今回のオバマ大統領訪問で最も象徴的なのは、これが『欧州外遊』だという点だ」と分析した。
トルコは長年、欧州連合(EU)への加盟を悲願にしながら、「キリスト教国クラブ」とも皮肉られるEU側から「異端視」され、加盟交渉は停滞してきた。トルコとしては、オバマ大統領訪問で対米関係を強化し、対欧州関係にも弾みをつけたい思惑があるようだ。【4月4日 毎日】
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3月2日ブログで取り上げたように、日本もクリントン国務長官の最初の訪問国になったとか、麻生首相がオバマ大統領が会う最初の外国首脳である云々で騒いでいましたし、同じようなことはイギリスでも見られます。
オバマ大統領が“欧州外遊の延長”でやってくることを重視するトルコを笑うことはできませんが、トルコのEUあるいは欧州に寄せる思いが伝わる話です。
【オバマ大統領 トルコのEU加盟支持】
トルコ・エルドアン政権はイラク戦争当時、米軍が自国領内の通過することを許可しませんでした。
このためアメリカとの関係がやや冷えこみましたが、一方で、中東・イスラム圏に目を向けた独自の外交を強化することにもなりました。
昨年はイスラエルとシリアの間接和平交渉や、アフガニスタンとパキスタンの首脳会談を仲介したほか、イランともエネルギー分野などで協力関係にあります。
今回のオバマ大統領のトルコ訪問は、こうした地域外交で存在感を強めるトルコの重要性を認識したうえでのことです。
ギュル・トルコ大統領との共同会見でオバマ大統領は「トルコと米国は、宗教の自由、そして法による統治の2つの尊重の上に『モデル・パートナーシップ』を築き、国際舞台でそれらの価値観を守っていくことで、世界に模範を示すことができる。東西のメッセージをともに伝えれば、2国はただならぬ影響を発揮できると思う」と褒めちぎっています。【4月6日 AFP】
トルコ悲願のEU加盟については、オバマ大統領は6日の演説で、“トルコのEU加盟によって、イスラム教徒が多数を占めるトルコを欧州にしっかりとつなぎとめることができる”として、トルコのEU加盟を支持しています。
しかし、「キリスト教国クラブ」かどうかはともかく、EU側には“異文化”トルコを警戒する意識が根強く、ハードルを高くしてなかなかトルコの加盟を承認していません。
【サルコジ大統領 「EUにトルコの居場所はない」】
オバマ大統領のトルコ加盟支持にフランスのサルコジ大統領が早速反論しています。
フランスのテレビ局とのインタビューで、「EUの問題はEU加盟国が決めるべきこと」、「わたしは常にトルコの加盟に反対してきたし、今も反対している」と語っています。
サルコジ大統領は以前から、トルコが地理的にアジアに属し、EUにトルコの居場所はないと主張しています。【4月5日 AFP】
【微妙なバランス】
こうしたEU側の冷たい対応に痺れをきらし、失望し、疲れるトルコ国内には、その反動としてイスラムの伝統的価値観を重視する流れが強まる傾向があります。
エルドアン首相率いる与党・公正発展党(AKP)は、公の場所での女性のスカーフ着用を認めるといったイスラムの伝統的価値観を重視するベクトルと、EU加盟を推進する欧州志向のベクトル、両方を併せ持つ政党です。
なかなか微妙なバランスを必要としますが、更に、エルドアン首相はクルド語使用を拡大するなど、クルド問題を抱えるトルコ国内でのクルド人の守護者を任じているそうで、その点でも微妙なバランスの上に立っています。
先月末に行われたトルコ統一地方選挙では、与党AKPは“いまひとつ”の結果だったようです。
****トルコ:与党AKP勝利…統一地方選 07年より得票率減****
トルコで3月29日、統一地方選の投開票があり、エルドアン首相率いるイスラム系の政府与党・公正発展党(AKP)が全体で39%の得票率を獲得し、勝利した。
しかし、07年総選挙時の得票率47%を大きく下回ったほか、重点区に位置づけたクルド人の多い南東部の拠点都市ディヤルバクルの市長選を落とすなど、厳しい結果となった。
改革路線を進めるAKPは外資参入に伴う「バブル景気」で、これまで支持を維持してきたが、世界金融危機のあおりでトルコ国内の失業率は13.6%に上昇。政府の対応の鈍さを非難する声も出ており、今後、政策の見直しも迫られそうだ。(中略)
エルドアン首相は選挙結果について「世論の声を受け止め、教訓を学ばなければならない」と述べて落胆の色を隠さなかった。首相は先に、得票率が47%を下回れば「失敗と考えなければならない」との認識を示していた。 【3月30日 毎日】
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先日のNHK・TV番組が報じるイスタンブール市民の様子は、“イスラム重視対世俗主義”といったことよりも、深刻化する不況のなかでとにかく景気をなんとかしてくれ・・・といった感じでした。
イスラム重視対世俗主義の対立、欧州・EU加盟を切望するもEU側の冷たい対応、クルド問題・・・こうした問題にバランスのとれた対応が可能か、エルドアン首相の今後の姿勢が注目されます。