(イランの“偉大な核開発の勝利”を報じる国内新聞 “flickr”より By daquitaines
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【アメリカ 「敵との対話」路線へ】
アメリカ・オバマ大統領はイラン指導部と国民へのビデオメッセージを公開し、3月31日のアフガン安定化のための閣僚級国際会議にもイランの参加を呼びかけ、高官同士の接触を実現させています。
こうしたアメリカのイランとの対決姿勢から対話路線への方針転換は、イランの核開発問題にも及んでいます。
イランの核開発については、過去に軍事転用を意図した研究があったとの疑惑があり、現在製造中の低濃縮ウランの利用計画も十分示されていないとして、安保理常任理事国とドイツはイランに対しウラン濃縮停止を要求しています。
****核問題会合:イランも参加へ 6カ国側が要請決定で*****
イラン核問題に対処する国連安保理常任理事国5カ国(米英仏中露)とドイツの6カ国会合は8日、ロンドンで高官協議を開き、イランに対し同会合への参加を要請することを決めた。「敵との対話」路線へかじを切った米国もイランが参加する会合に同席し、交渉に加わる姿勢を明示した。
参加要請の決定に対し、イランのジャバンフェクル大統領顧問は9日、「検討のうえ決定したい」と述べた。イランの国営メディアは6カ国側の動きを好意的に取り上げており、イランの参加は確実とみられる。(中略)
今後、イランと米国が参加する協議が定例化すれば、核問題の解決に向けた突破口が開ける可能性も出てくる。オバマ米政権はイランとの「直接対話」を求め、一方のイランは対米関係修復を志向しているからだ。【4月9日 毎日】
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アメリカはこれまで、イランとの直接協議は原則としてEUに委ねてきました。
昨年7月にジュネーブで開かれた協議にイランと同席したこともありましたが、イランがウラン濃縮活動を停止しない限り「交渉」には応じない姿勢を打ち出し、対話の進展はありませんでした。
今回の参加要請にイランが応じれば、核問題をめぐる交渉は新たな段階を迎えることが期待されています。
【イラン NPT(核拡散防止条約)が認める法的権利】
ただ、イラン側は協議に応じる姿勢を示してはいますが、核開発そのものについては一貫して独自の権利として継続する姿勢を崩していません。
****イラン・核技術の日 大統領「新型遠心分離器を試験」*****
イランのアフマディネジャド大統領は同国の「核技術の日」の9日、中部イスファハンでの式典で「従来より性能の高い2種類の新型遠心分離器の試験を行った」と語り、濃縮活動を拡大していることを明らかにした。同時に、新しい核燃料棒製造施設が完成したことに触れて「我が国の核燃料製造はすべての段階が完成した」と述べ、核の平和利用の進展をアピールした。
濃縮活動に関しては、大統領演説に先立ってアガザデ原子力庁長官が、中部ナタンズの施設にある遠心分離器の数が「7千基に達した」と発表した。
一方、アフマディネジャド氏は、国連安全保障理事会の5常任理事国とドイツの6カ国との核問題に関する協議について「状況は変わった。我々は世界的な(核の)軍縮を歓迎する」と述べてオバマ米政権が打ち出した核軍縮の流れを評価、一定の柔軟姿勢を示した。
イランは05年のアフマディネジャド政権発足で、中断していた自前の核開発を再開。06年4月に低濃縮ウランの製造を達成した日を「核技術の日」に制定しており、この日は4度目に当たる。(後略)【4月10日 朝日】
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アハマディネジャド大統領は演説で、濃縮活動停止を求める国際社会を批判しながらも、公正と尊重に基づくのなら、西側諸国との対話も可能だとの見解を示したとか。
イラン国内において、核開発継続は改革派を含めた国民的合意にもなっており、改革派から大統領選挙出馬を予定しているムサビ元首相も、イランの核開発について、
「イランが加盟するNPT(核拡散防止条約)が認める法的権利だ」
「平和目的であり、イランも強く反対している核兵器拡散の問題と厳密に区別すべきだ。国際社会の平和を脅かすものではない」
「イランの核技術に関する権利が、対米関係修復の犠牲となって、損なわれてはならない」と述べ、核開発問題と対米関係の問題は切り離すべきだと主張しています。
オバマ米大統領はプラハの5日の演説で、「核兵器のない平和で安全な世界」を目指す包括戦略を語っていますが、先ずは、ロシアとの核軍縮交渉と併せて、イランの核開発問題についてどのような道筋をつけられるのかが注目されます。
【日本・イラン アフガン共同支援】
ところで、日本政府もアフガニスタン支援を通じて、イランとの関係を強める動きが報じられています。
****アフガン支援、イランと合同で麻薬撲滅や職業訓練へ…日本政府*****
アフガニスタンの安定化に向け、政府がイランと共同で麻薬撲滅や職業訓練などの支援に取り組むことで合意し、近く発表することが9日、明らかになった。
アフガン安定化は、オバマ米政権が最重要課題と位置づけており、日本としては、米国が国交を持たないイランとの協力を通じ、アフガン復興に貢献する狙いだ。
イランのアッバス・アラグチ駐日大使が読売新聞との会見で明らかにした。共同支援は、〈1〉麻薬の密輸ルートを断つための国境警備強化〈2〉民間部門とも協力した職業訓練〈3〉イラン国内にいるアフガン難民の帰還支援--が柱となる。特に麻薬については、イラン経由で欧州などに密輸され国際問題となっており、イラン側が取り締まりに当たるアフガン警察を訓練する一方、日本が車両などの装備を提供。両国が「得意分野」で貢献することで撲滅を目指す。
大使によると、両国は今月17日に東京で行われるパキスタン支援国会合に合わせて発表する方向で調整中という。イランは、核問題などを巡り国際社会と対立しているが、アフガン安定化では米国などと利害が一致する。日本との支援の枠組みに参加することで、国際的な孤立を脱する狙いもあると見られる。
一方、アラグチ大使は、北朝鮮による日本人拉致問題の解決に向け、「イランが出来ることがあれば、行う用意があると日本政府に伝えた」と述べた。北朝鮮との国交を利用し、仲介に乗り出す意向を示したもので、既に拉致被害者の家族とも接触したという。北朝鮮とミサイル開発で協力しているとの報道については、「何年も前にあらゆる協力を停止した」と否定した。【4月10日 読売】
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北朝鮮の拉致問題での糸口が見つけられれば上出来ですが、それはともかく、これまで疎遠だった国々が新たな関係を模索する取組みは歓迎されるところです。